株式会社スノーボール

釜山小旅行

私は24歳だった1995年1月から、およそ5年間にわたりマレーシアでの駐在生活を送った。

クアラルンプールからは、仕事やプライベートを通じて多くの国々を訪問した。タイ、シンガポール、インドネシア、ベトナム、スリランカ、台湾、香港、中国、韓国といったアジアの地域へ頻繁に足を運んだ。当時は若く、そのありがたみを深く意識していなかったが、今になって振り返ると、20代という多感な時期に海外で働き、生活した経験はめちゃくちゃ貴重なものであった。一つの場所で長く生活することも素晴らしいが、若いうちに多様な経験を積めたことで、経済を見る視野が大きく広がったことは幸運だったと感じている。

海外で暮らすことのメリットは、日本という国を外側の視点から客観的に見ることができる点にある。それによって、日本の素晴らしい点と、同時に課題や短所が鮮明に見えてくる。

世界経済の一員である私たちにとって、世界で今起きている現実を知ることは重要である。ビジネスの現場や資産運用においても、海外情勢を肌で知っていることは大きなアドバンテージになるはずである。しかし、インターネットの情報やマスメディアの報道を眺めるだけでは、世界の真の姿は見えてこない。その土地に実際に立ち、日々の暮らしを体験することに勝るものはないと確信している。

マレーシアでの充実した5年間の駐在を終えて2000年に帰国し、私は金融業界へと身を転じた。その後もアジアへの好奇心が衰えることはなく、プライベートで定期的にアジアの国々へ旅を続けている。

ここ3年の間にも、インドのムンバイをはじめ、ベトナムのハノイやホーチミン、マレーシアのクアラルンプールとマラッカ、台湾、そして韓国の釜山などを訪れた。まさに「百聞は一見に如かず」の言葉通りである。1995年当時から30年という歳月を経て、現在のアジアの目覚ましい成長と変化を、身をもって実感することとなった。

先月末、2泊3日で訪問した韓国の釜山は、ソウルに次ぐ韓国第2の都市である。仕事や私用で何度も訪問したソウルとは異なり、釜山へはこれまで訪れる機会がなく、今回が初訪問であった。韓国経済といえばソウル一極集中という印象が強く、正直なところ訪問前は「地方の素朴な漁港」というイメージしかなかった。

しかしながら、実際の釜山の街は、私の想像とは違って、刺激的かつ魅力的な都市であった。

釜山は2000年頃からドーナツ化現象による人口減少に直面しているとはいえ、今も約320万人の大都市である。日本の横浜市の人口が約375万人であることを考えると、それとほぼ同等のスケールと言える。歴史的・地理的にも極めて重要な位置を占めており、1950年に朝鮮戦争でソウルが陥落した際には、1953年まで韓国の臨時首都としての役割を果たした。また、山口の下関市や福岡市からは約200キロ、長崎県の対馬からはわずか50キロほどの距離にあり、日本に最も近い海外の主要都市でもある。

昨今は日中関係の冷え込みの影響からか、日本を訪れる中国人観光客が減少傾向にある一方で、中国から韓国への旅行者は大幅に増えているという。さらに、私が訪問した前週に釜山でBTSのコンサートが開催されたこともあり、世界中から多くの人々がこの街に押し寄せているようであった。私は関西国際空港から釜山に入国したが、ちょうど同じ時間帯に福岡からの便も到着していた。成田からの直行便はあるものの羽田からの便がないためか、関東圏よりも西日本から訪れている旅行者が多い印象を受けた。実際、入国審査を待つ列からは関西弁がたびたび聞こえてきて、日本人観光客の多さを実感した。彼らはカジノや推し活、美容コスメ、グルメなど、それぞれの目的を携えて訪れているのだろう。

私自身の最大の目的は、韓国最大級の魚市場であるチャガルチ市場の視察であったが、その規模の大きさと魚介類の質の高さには驚いた。日本で有数の規模を誇る下関の唐戸市場と比べても、少なくとも3倍以上のスケールはあると感じた。

チャガルチ市場では、生け簀で泳ぐアワビやサザエ、ホタテ、ウニ、ホヤ、真鯛、ヒラメ、カンパチ、タコ、穴子などをその場で選び、2階の食堂で調理してもらうシステムになっており、とてもユニークであった。その魅力に惹かれて滞在中に2度足を運んだが、釜山は市場だけでなく街全体がグルメの宝庫である。

現地の人に聞いて、釜山の3大グルメとされるテジクッパ、ナッコプセ、ミルミョンの名店を巡ったが、いずれの料理も絶品であった。韓国スイーツのホットクを口にした瞬間、中のはちみつで唇を火傷するというアクシデントもあったものの、釜山グルメのクオリティは極めて高かった。ソウルや悔しいが横浜よりも釜山は美味しかった。

私の故郷である愛媛の松山空港からは、釜山へのLCC直行便が運航しており、わずか1時間20分ほど。地元の友人らは頻繁に釜山を訪れているそうだ。確かに、少し前に松山城へ登ったときには周囲から韓国語ばかりが聞こえてきたし、愛媛のゴルフ場も多くの韓国人客で賑わっていた。その大半は釜山からの旅行者なのだろう。韓国は日本に比べてゴルフ場の数が少なく、プレー料金が高額である。ベトナムの方からも、現地はゴルフ場が不足していて料金が高いという話を耳にしたが、韓国では週末のグリーンフィーが4万〜5万円もするという。そうした国際比較の視点で見ると、円安の影響もあって、日本の特に地方都市におけるゴルフ料金は世界的に見て非常に割安である。

松山で最高峰とされる奥道後ゴルフクラブであっても週末の料金は約2万5000円であり、愛媛県内なら週末でも1万5000円ほど出せば殆どのコースを回ることができる。釜山からわざわざ飛行機に乗って松山へゴルフをしに来る人が多いのも当然である。こうした韓国からのインバウンド需要は地元の経済にとって大きな恩恵であるが、松山市内のホテル価格、特に週末の宿泊料金が高騰している。実際、先週末に松山市内のホテルへ2泊した際、普段なら1万円程度で泊まれる部屋の価格が3倍にまで跳ね上がっていたことには強い衝撃を受けた。

ところで、釜山の物価水準は東京と比較すると少し安価であるように感じられた。滞在中にはちょうどサッカーのワールドカップが開催されていたが、韓国代表が予選敗退を喫し、帰国した代表監督が空港でファンから激しいヤジを浴びる場面があった。さらに、日本人の感覚からは理解しがたいが、韓国の大統領までもがその監督批判に便乗し、ホン・ミョンボ監督を痛烈に非難したことが話題になっていた。

現地の経済ニュース番組では、SKハイニックスという企業名が繰り返し報じられており、釜山の街での関心事はワールドカップ、SKハイニックス、そしてBTSという印象であった。韓国経済は、サムスンやSKといった一部の巨大財閥企業や、BTSに代表される世界的エンターテインメント産業が国際舞台で圧倒的な存在感を放っている。その一方で、一般の国民の暮らしがどのような状態にあるのかは、わずか2泊3日の滞在ではわからない。ただ、インバウンドの活気に沸く釜山の街並みを眺める限りにおいては、韓国経済は決して悪くはなさそうに見えた。

そういえば不思議なことに、釜山で行き交う現地の人々は、年齢や性別を問わず、上下とも黒で統一した服装の方が圧倒的多数を占めていた。これはBTSファッションの影響なのだろうか。

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