株式会社スノーボール

LTCM危機から学ぶこと

世界はこれまでに幾多の金融危機を乗り越えてきました。1929年にはウォール街大暴落を機に世界に波及した世界大恐慌、1997年にタイのバーツを中心に東南アジア諸国の通貨が大暴落したアジア通貨危機、2008年にリーマン・ショックが起こっています。

今回のコラムでは、1998年に発生したLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)危機について解説します。LTCMは1994年から1999年まで存在したヘッジファンドで当時のソロモン・ブラザーズ(現シティグループ)で活躍していたジョン・メリウェザーによって創設されました。運用チームにはノーベル経済学賞を受賞したマイロン・ショールズ、ロバート・マートンやFRB元副議長のデビット・マリンズなども加わった、いわばドリームチームでした。LTCMはこれらの著名メンバーが参画したことにより、当初から大きな運用資金を機関投資家や富裕層から集めることができました。

同ヘッジファンドでは、金融工学理論に基づき、2つの関連商品の価格差が歴史的に拡大したときに割安な資産をロング(買い)、割高な資産をショート(空売り)することで価格差が正常化した時に無リスクの利益を狙う裁定取引(アービトラージ)を行っていました。裁定取引によって得られる利ざやは限定的ですが、レバレッジを活用することによって、莫大な利益を得ることができます。LTCMは金融機関から多額の資金を借り入れ、極端なレバレッジをかけました。レバレッジ比率は30:1にまで及び、約40億ドルの自己資本に対して約1250億ドルの資金を運用していた時もありました。最初の4年間はこの運用戦略が功を奏し、莫大な取引利益を上げました。

LTCMは1998年に起こったロシアショックを期に破綻に追い込まれます。同ヘッジファンドはロシアの金融危機が収束することを見越してポジションを取っていました。具体的にロシア国債を割安と判断し、ロングし、流動性が高いとされる米国債をショートしていました。また、ロシア以外の新興市場にも巨額の資金を投資していました。蓋を開けてみるとロシア国債の価格は暴落し、新興国債券が売られ、安全資産である米国債に資金が流れたことで2つの債券の価格差は大きく拡大しました。LTCMはこれによって巨額の損失を被り、破綻に追い込まれました。同ヘッジファンドはロシア国債の流動性リスクを過小評価していました。これらのリスクは当時の最先端数理モデルでも予測することが難しいです。

投資において数学的センス及び考え方は非常に重要です。しかしながら、投資には数学以外の重要要素が多く存在します。金融工学の天才達を持ってしても大きな損失を被ってしまうことは投資がいかに難しいかを物語っています。昨今、AI半導体関連銘柄の株価が急上昇し、国内でも6月3日の東京株式市場でキオクシアホールディングスがトヨタ自動車の時価総額を一時上回りました。AI半導体の需要は底堅いことが予想されるものの、私はこの株式市場の熱狂に少し警戒感を抱いています。

米著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資信条の一つに「他人が強欲になっているときに恐れて、他人が恐れているときに強欲になることだ 」があります。私もこの投資信条に同意します。世の中の多くの人がしていることが正しいとは限りません。また、多くの人は投資のリターンを注視しますが、リターンを得るために生じるリスク(価格の振れ幅)については過小評価をすることがあります。長期で資産運用をするにあたって、リターンとリスクの両面を考慮し、安定的に継続投資をしていくことが望ましいと考えます。

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