
5月25日月曜日の日経平均株価は、終値で初めて6万5000円を超えた。TOPIXも過去最高値を更新し、終値は3942ポイントとなった。
『失われた30年』長く続いた株式市場の低迷を考えると非常に喜ばしいニュースである。株価は下がるより上がったほうが良いことは間違いない。
しかし多くの方から、なんで株価が上がっているのかと聞かれることが増えた。多くの人には景気が良いわけではないのに株価が上がっている現状に違和感があるかもしれない。株価上昇には、様々な要因があるので答えは一つではないが、大きな要因の一つに、『デフレの終焉』があると思う。
株価は、名目値であり、実質値ではない。日本ではゼロ金利の時期が長く続いたことで金利が意識されない期間が長く続いた。しかし、『金利のある世界』では30年前の6万円と今の6万円の価値は、当然違う。ちなみに今の6万円を金利2%で割り引くと30年前の価値は、3万3千円となる。
株価=EPS(利益)×PER(期待)であるが、EPS(利益)も名目値である。物価上昇で消費者に価格転嫁できる企業の利益は増えるため、株価は、当然であるが上昇する。
都心のマンションは、30年前から少なくとも2倍以上に値上がりしているように思う。物価も同様に2倍以上になっている。最近では私の出身地である愛媛や北海道や九州など全国各地の居酒屋においても物価が上がったことを実感させられる。東京ほど高くはないが、あきらかにモノやサービスの価格は上昇しており、その結果として企業の売り上げや利益が増えていることを考えれば、株価上昇もさほど驚くことはないのである。
もう一つの株価上昇の要因は、世界的なAIや半導体関連企業の株式市場全体を押し上げている構図である。これは日本のみならず世界的な動きであり、近年マグニフィセントセブンを筆頭にハイテク株が上昇した結果、世界の時価総額ランキングの上位は、AI半導体関連企業が多く占めることになった。1990年代後半のITブームは、ITバブル崩壊という結末となったが、今回のAI革命がどのような結末を迎えるのだろうか。今年は、オープンAIやアンソロピック、スペースXなど注目企業の上場が予定されているが、これまでに人類が見たことのないスピードで企業が巨大化する光景を見ることになりそうである。
もちろん一部のAI関連銘柄にはバブル懸念がつきまとっているものの、AI革命のおそらく数少ない勝者は莫大な利益を得ることになりそうである。
長年にわたって日本のリーディングカンパニーとして君臨してきたトヨタ株の上値が重い中、AI半導体関連銘柄であるソフトバンクやキオクシアホールディングスの株価が急騰している。特にキオクシアは2014年12月に上場して以来、わずか1年半で株価が30倍超となっており、日本におけるAI革命の中で、今最もホットな企業となっている。
5月25日現在の時価総額ランキングは次の通りである。
1位トヨタ(48.7兆円)、2位ソフトバンク(40.7兆円)、3位三菱UFJ(36.4兆円)、4位キオクシア(33.1兆円)、5位ファーストリテイリング(24.2兆円)、6位東京エレクトロン(24.1兆円)、7位三井住友FG(23.2兆円)、8位日立製作所(23.0兆円)、9位ソニーG(21.8兆円)、10位アドバンテスト(20.7兆円)
日本でもAI半導体関連企業の躍進が目立っている。ちなみに日立製作所は、かつての家電の会社の面影はない。世界中で高まる電力インフラを支えるグローバル企業に生まれ変わっており、データセンターなどAI半導体ビジネスに欠かせない企業となっている。ソニーも映像や音楽、ゲームなどエンタメ企業のイメージが強い。日本のトップ10の顔ぶれを見るといわゆる伝統的な製造業は、トヨタ1社となっている。今後AI革命の勝者がどの企業になるのか?注目が集まっている。
さて、あらためて株価は、EPS(利益)×PER(期待)である。
世界的に赤字のAI関連企業の株価も上昇していることには警戒が必要であるが、将来にわたって莫大な利益を上げられる企業の株価は、時間とともに正当化される。今後は、AI革命の中で本物とそうでない企業の見極めがより重要となってくることは間違いない。また『金利のない世界』では低迷していた三菱UFJや三井住友Gなど銀行業においても『金利のある世界』への転換は、追い風となっている。
ホルムズ海峡を巡る米国とイランの交渉の行方から日本の新発10年国債の利回りは、乱高下しているものの長期金利は29年ぶりの高い水準で推移している。金利上昇は、有利子負債を多く抱える個人、企業、国家にとっては頭の痛い問題である。特に個人の住宅ローンなどの契約においても要注意である。日本政府は、これまでも一時的な人気取りのために将来を犠牲にするポピュリズム(大衆迎合)的な政治を行ってきた。その失政の積み重ねが雪だるま式に莫大な借金となっており、国家財政の危機は、日本最大のリスクと言ってよいだろう。インフレは、実質的な借金を軽減することが可能であるが、金利上昇によって借金の利払いが膨らみ、それを見透かす機関投資家は日本円を売り、円安を誘引する。日本政府は、『責任ある積極財政』などと念仏を唱えて財政を拡張させているが、誰の目にもあきらかに手詰まりでがんじがらめの状態となっている。
2022年にイギリスで財政懸念から起きた『トラスショック』は記憶に新しいが、今の日本の政策を見ていると、いつ『高市ショック』となってもおかしく状況である。
2026年現在も世界経済とマーケットは非常に不安定な状況が続いているが、現在の状況は、1970年代と類似しているように思う。1970年代は、アメリカにおけるバブル崩壊(IBMやマクドナルドなどニフティ・フィフティ株の暴落)とニクソンショック(金ドル本位制が終焉)、ドル安、ベトナム戦争による債務の急増、そして第4次中東戦争の勃発を契機にオイルショックが起きた10年間であった。これらの結果として二桁台のインフレ、失業率は高まり、景気後退が長引くことになった。経済の停滞(スタグネーション)とインフレが同時に起こることをスタグフレーションと呼ぶが、今の世界はまさに中東における地政学リスクを契機としたスタグフレーションのリスクが高まっている。
もちろん多くの人々が事態の鎮静化を望んでいるが、過去の歴史を振り返っても愚かな指導者によって間違った意思決定がなされる可能性は残されており、予断を許さない状況がしばらく続きそうである。1970年生まれの私には70年代の経済状況の記憶はないが、父の記憶によると当時のオイルショックよりも今の現状は酷いらしい。
無知な個人がマネーゲーム感覚でキオクシア株に群がっているようである。当時のニフティ・フィフティブームの時のように。企業の本質的な価値を理解しないまま株価が上がっているから買う、これは投資ではなく投機である。対照的に賢明なる投資家は、厳しい世界経済の中でリスク管理を徹底して、従来の運用方針に従ってたんたんと長期投資を継続する投資家である。