株式会社スノーボール

アンソロピック・ショック

今年2月の株式市場はAI新興アンソロピックの「Claude Cowork」の発表を受け、激震が走りました。SaaS(Software as a Service)関連銘柄はAIに代替されるとの懸念から急落しました。SaaSはインターネット経由でソフトウェアをクラウドサービスとして利用できる仕組みです。SaaSの代表的な企業には、セールスフォース、アドビ、サービスナウなどが挙げられます。また、皆様が使われているMicrosoft365もSaaSに該当します。

Claude Coworkの開発では、コードの大半をAIが書き、10日間で完成したというのは驚きの事実です。Coworkは法務や財務、マーケティング等の事務職の作業を効率化することに長けています。「SaaSの死」論争には意見が分かれます。エヌビディアCEOのジェンスン・ファン氏は高度化したAIが個別の業務ソフトに取って代わるという見方を一蹴しました。しかし、マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏はあるポッドキャストにて、SaaSのようなアプリケーションはいずれAIエージェントに置き換えられるという見方をしています。

個人的に現時点でSaaSの死が訪れているとは思いませんが、SaaS企業の中でも明暗が分かれてくると思います。SaaSのサービスではユーザー単位モデルの料金体系を活用していることが多いです。この料金モデルでは、顧客企業のシステムを利用する人数が増えるごとに一定額が月額料金に追加されます。しかし、Coworkの台頭により、このビジネスモデルは影響を受けます。顧客企業は将来的にSaaSを使用するユーザーを絞ることが想定されます。また、ユーザーの主体が人間からAIエージェントに変わることが想定されるため、ユーザー単位モデルでは、収益の成長性は見込まれません。

アンソロピックはダリオ・アモデイ氏が創業したAI開発新興企業です。アモデイ氏はAIの安全性に対するアプローチを巡り、オープンAIのCEO、サム・アルトマン氏と対立し、2021年にオープンAIを辞職しました。アンソロピックの現在の企業価値は3800億ドル(約60兆円)であるため、創業5年で非上場にも関わらず日本で最大の時価総額を誇るトヨタ自動車を上回ります。アンソロピックの従業員数は2026年2月時点で約2000人であるため、高い生産性を維持していることが分かります。オープンAIが多くの個人の顧客を有しているのに対し、アンソロピックは法人顧客に強みを持っています。同社のAIモデル「Claude」はベネズエラ攻撃やイラン攻撃の際にも使用されましたが、米国防総省の使用方法を巡り同社と政府との関係が悪化し、取引停止に至っています。 

個人的にAIの倫理を重視するアンソロピックは至極真っ当な行動をしていると思います。最大顧客である米政権を味方につけることで短期的に大きなメリットを享受できるかもしれませんが、それが長期的には良いとは限りません。オープンAIが国防総省と契約を結んだ後、アンソロピックのClaudeに乗り換えたユーザーも多く見られます。アップストアの米国の無料ランキングではClaudeが今年の2月28日にChatGPTを抜いて首位に立ちました。トランプ大統領の圧力に対して屈することなく、信念を貫く姿勢は多くのユーザーから共感を得ています。同社のようなフィロソフィーを持つ企業は長期的には報われると考えます。

また、Claudeの開発において興味深いのがアンソロピックの専属哲学者であるアマンダ・アスケル氏が単独でClaudeの道徳心を教育しているという事実です。同氏はスコットランド出身で哲学を学び、オクスフォード大学で哲学の修士号に相当する学位を取得しています。近年、AIは急速に発展していますが、規制はまだ十分に追いついていません。そんな中で同氏のような存在はAIモデルの道徳心を形成することでとても重要だと思います。今後もアンソロピックとSaaS企業の動向に注視していきたいです。

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