
激動の2025年も残すところ3カ月あまりとなった。トランプ関税で揺れた4月からマーケットは落ち着きを取り戻しつつあるが、依然として先行きは不透明な状況である。今月23日のトランプ大統領の国連演説に象徴されるがアメリカは、世界に完全に背を向ける態度をとっている。一方で中国は、インドをはじめとするグローバルサウスなどの国々と協調姿勢をとりながら、ロシアや北朝鮮とも結束している。世界第一位と第二位の経済大国であるアメリカと中国は、世界の2トップの嫌われ者になりつつある。世界は混沌としている。
8月10日アメリカのユタ州でトランプ大統領に近い保守活動家のチャーリー・カーク氏が銃撃され、死亡した。この事件からもアメリカの分断は、私たちの想像以上に深まっており、MAGAのスローガンのもとアメリカを偉大にするどころか、国家としての威信は、急速に低下している。もはや世界にリーダーとなる国は存在せず、リーダーシップなき世界、イアン・ブレマーのいうGゼロ世界が到来したといえるだろう。リーダーシップなき世界においては、ロシア・ウクライナ戦争、パレスチナとイスラエルの紛争も解決の糸口が見えず泥沼化している。
さて現在のような混沌とした不確実性の高い世界経済、マーケット環境において投資家はどのように長期投資を継続するべきなのだろう。多くの未熟な投資家は、感情を一定にコントロール出来ないままに、誤った投資判断を行いがちである。今流行りのAI関連企業にマネーが群がる状況は、2000年初頭のITバブルを彷彿させる。バブルの規模の程度は、分からないがどこかでAIバブルがはじけることは避けられないのではないか。資産運用においても今のAIブームに乗るのではなくバブルではないのか?という感覚を持ち、しっかりとディフェンスを固めるそのような意識が必要であると考えている。
個人的に長期投資とは10年以上の投資と定義してるが、過去10年に世界経済とマーケットに起きたイベントを振り返ってみると実に様々なことがあった。
2015年のチャイナショック、2016年のブレグジッド、トランプ第一次政権での米中貿易戦争に端を発した2018年12月の世界同時株安、2020年からのコロナ感染拡大、2022年ロシア・ウクライナ戦争、その後の世界的なインフレ、現在も継続しているトランプ関税等を含め世界は、この10年間まさに危機の連続であった。これからの10年もこれまで同様に様々な危機が起こることは間違いないだろう。
そんな2015年以降の危機的な10年間において結果的に一番成功した投資家は、リスク許容度にあった目標利回りに沿った資産配分を保ちながら、BUY&HOLDを継続した投資家であったと思う。
危機のたびに変動するマーケットに一喜一憂し、その時々の感情に任せて不要な売買を繰り返す投資家が成功する可能性は、ほぼゼロである。資産運用の基本原則であるがマーケットの変動に惑わされず感情を一定のフレームワークに保ち、自制心を持つ投資家が適切なリスクをとったご褒美にリターンを獲得することが可能となるのである。
バークシャー・ハサウェイの2005年の年次株主総会でバフェットは、投資家に必要な資質について次のように述べている。
『全ての出発点になるのは心構えです。高いIQではありません。IQは、せいぜい125あれば足ります。それ以上あっても無駄になるだけです。』
当社スノーボールは、本年8月末時点で約370名(投資残高 約230億円)の顧客の資産運用をサポートしている。私自身20年近く一人一人のお客様と向き合ってきた経験から言えることは、IQが高い人が資産運用が上手とは限らないということである。いわゆる学校で成績の良い人が現実の社会で成功するわけではないのである。中途半端な知識で投資判断を行うことほど怖いことはない。もちろん一定の金融知識や金融リテラシーがあるにこしたことはないのだが、それよりも、資産運用に向き合う心構えのほうがより大切だと考えている。これは投資のみならずビジネスでも同様である。
チャールズ・エリス氏の指摘する通り、資産運用は『敗者のゲーム』である。不要なミスをしないことが成功の秘訣である。運用途中で売却して余計な税金を払ったり、商品を頻繁に売り買いしたり、そのようなミスを減らすことが大切である。お笑い芸人でも一番面白い芸人が成功するとは限らない。スキャンダルのない(ミスがない)芸人が生き残り成功するのである。
実際に資産運用のことをよく分かっていない多くの人たちが、自分は分かっていると過信し、ミスを犯している。ユーチューブを見て分かったつもりになってはいけない。多くの人がミスを犯しているにもかかわらず、ミスを犯していることにさえ気づいていない。マーケットが順調な時は、ミスは顕在化しないかもしれないが、マーケットに逆風が吹いたときにミスは命取りになる。
当社のお客様は『中浜さん、私は資産運用のことを全く分かっていないのです。』とおっしゃる方が多いのだが、これはとても謙虚な姿勢であり自分の事を客観的に理解している点で大変素晴らしいと思う。逆に資産運用のことを分かっていると過信している人ほど非常に危険である。これは大学教授や偽エコノミストらにも言えることである。彼らは学校の勉強はできるかもしれないが、現実の資産運用の実務については全く分かっていないと思う。投資界のスーパースターであるバフェットやチャーリー・マンガーでさえことあるごとに資産運用は難しいと語っている。全ての投資家は、資産運用に対して謙虚になるべきである。
資産運用の事を分かっていないことを分かっていない人よりも、分かっていないことを分かっている人のほうが資産運用におけるミスを減らすことが出来るだろう。資産運用に限った話ではないと思うが、このような不確実性の高い時代にこそ、謙虚さや自制心を持つことは重要だと思う。
最近日本でも政治家のくだらないスキャンダル報道が目立っている。兵庫県知事や伊東市長、前橋市長、沖縄の南城市長から経済同友会のトップまで様々な不祥事やスキャンダルが報道されている。個々のスキャンダル報道それ自体に全く興味はないのだが、一応リーダーと呼ばれる人物のスキャンダルなどの現象と世界的に謙虚さや自制心のないリーダーが誕生していることが無関係でないとすれば、それに対しては大きな危機感を覚えてしまう。
かのピーター・ドラッカーは、リーダーの条件として一番重要な資質は『真摯さ』であると語っている。もしドラッカーが生きていたら、今の世の中をどのように見ているだろう。道徳や倫理観のない人間がリーダーとなっている世界は、過去の歴史からも明らかであるが非常に危険である。