株式会社スノーボール

アメリカ長期金利の行方

先月末に3泊4日、実に25年ぶりに台湾を訪問した。9月27日金曜日桃園空港に着陸後に娘からのLINEで石破新総裁誕生を知った。娘によると日経平均先物は大きく下落、外国為替市場も円高が急伸しているとのこと。台湾メディアも石破総裁誕生を速報していた。今回の台湾旅行の目的は、小籠包や台湾料理もあるのだが、それよりも台湾の今を自分の目でみたかったからである。台湾は若い時にマレーシアから出張で2度訪問したことがあった。当時から料理が抜群に美味しくて、都会的かつ賑やかで洗練された街であった。

台北市街を3日間、徒歩と地下鉄とバスとタクシーを使って周遊したが、あいかわらず何を食べても食事が美味しい。また日本の大都市同様に交通インフラが整備されていて、システマティックである。日本人旅行者にとって、言葉が通じなくても全く困ることがない街が台湾なのだ。台北は、大阪にいるような雰囲気であり、25年前と大きく変わった印象は受けなかった。街が発展していないというわけではなく、30年前からすでに発展していたため、サプライズはなかったのだ。25年ぶりにムンバイやバンコク、深圳、ホーチミンを訪問した人は街の変貌ぶりに驚くことは間違いないが、良い意味で台湾は変わっていなかったのだ。

昨日、中国の大規模な軍事演習の報道があったが、台湾を取り巻く国際情勢は確実に変化しており、地政学的なリスクが年々高まっているのは明らかである。表面的には30年前と変わらない台北の街の光景に安堵したものの、台湾の人々が心の中で未来に不安を感じていることは間違いないだろう。

さて来月5日のアメリカ大統領選挙まで20日を切った。日本は冒頭の『石破ショック』なる瞬間的なマーケットの変動もあったが、もうそれらは昔の話で忘れられたようである。そもそも日本の総理大臣が誰になろうとマーケットにはあまり影響がないというのが私の考えである。アメリカ大統領選挙の行方も気になるが、中長期的視点で見れば誰が大統領になってもマーケットにはあまり関係ない。マーケットの短期的な変動に惑わされることなく5年後、10年後を見据えて長期投資をたんたんと継続していくことが大切である。

今後の世界経済を占うという点では、大統領選挙よりもアメリカの実体経済を冷静に分析する必要があるだろう。

10月4日金曜日に発表された米雇用統計は、事前予想を上回るサプライズとなった。非農業部門雇用者数は、市場予想の15万人を大幅に上回る25万4000人となった。また7月、8月の実績も上方修正され合計で雇用者数は7万2000人増。失業率は、8月の4.2%から4.1%に低下し、平均時給も前年比3.9%から4.0%に上昇。すべての項目で予想を上回るサプライズで米雇用情勢の堅調さが浮き彫りとなった。

先週10日に米労働省が発表した9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で2.4%上昇と8月の2.5%から鈍化したものの市場予想の2.3%を上回った。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は前年同月比3.3%上昇と前月の3.2%から上昇。インフレ率そのものは低下傾向にあるものの、依然としてアメリカの物価は高止まりしているのだ。

先月9月17日~18日のFOMCでFRBは、0.5%の大幅利下げに踏み切ったが、FOMCの直前には米国10年国債の利回りは3.6%まで低下していた。10月4日の雇用統計を受け、7日のニューヨーク債券市場で10年国債の利回りは、2カ月ぶりに4%を超えた。現時点では11月のFOMCで0.25%利下げとの見方がメインシナリオとなっているが、アメリカの利下げサイクルは、かなり緩やかになる可能性が高まっており、長期金利が上昇し、円安ドル高が進んだ。

また米金利上昇にはFRBの金融政策のみならずアメリカの財政懸念が背景にあるという見方も出ている。当初、日米金利差縮小を背景に為替市場は、円高ドル安の予想が多かったのだが、日米の金利差縮小が意外と進まないとの予測が浮上している。

2022年からのFRBの急ピッチな金融引き締めにもかかわらず、アメリカ経済が予想外に堅調で景気後退(リセッション)に陥らない現状から、アメリカ経済が金利上昇に対して以前ほど脆弱ではなくなっている可能性も指摘されている。インフレ率と失業率をバランス良く保つ『中立金利』は、コロナ前と比べて上昇しているようである。

アメリカの2024年会計年度(23年10月~24年9月)の財政赤字は、1兆8000億ドル(約270兆円)となりGDPの6.4%になり、戦争や景気後退、コロナ禍の危機などを除くと過去最高の数字である。財政赤字の拡大はアメリカに限った話ではないが、コロナ禍において世界各国の財政赤字は急激に悪化しており、金利上昇による国債の利払い費は大きな負担となっている。このような中、トランプ、ハリス両候補は、アメリカの債務拡大につながる巨額の財政出動と減税を公約に掲げている。財政面から見ればトランプよりハリスのほうがましだという声もあるが、どちらがなったとしてもアメリカの財政懸念が解消されることはなさそうであり、長期金利の上昇要因となりそうである。

アメリカ経済がソフトランディングする可能性は高くなっているが、もしも景気後退に陥った場合にはFRBが政策金利であるFF金利を段階的に下げるだろう。しかしながら長期金利は、アメリカの財政懸念から高止まりするかもしれない。

グローバリゼーションの終焉によって、世界経済の構造は大きく変化している。近年の米中摩擦、ロシア・ウクライナ戦争、コロナショックは、世界経済の構造を急激に変化させた。またAIなどのイノベーションや再生エネルギー、気候変動、サプライチェーンの再配置等の変化は、従来の景気サイクルや金利、物価、為替、経済成長率などにも大きな影響を与えている。未来の予測はこれまで以上に困難となっている。まさに世界経済の先行きは不透明であり、当面不安定な時代が続く可能性が高いと考えている。最近のアメリカの長期金利(新発10年国債の利回り)の不安定な動きは、未来の不確実な世界経済を反映しており、今後も注視していきたい。                                                                                                                                     

上部へスクロール