株式会社スノーボール

昭和と令和のブラックマンデー

8月は相場が大きく変動し、中には驚かれた方もいるのではないでしょうか。私自身も日経平均株価がこれほど下げたのを目の当たりにしたのは初めてでした。今月のコラムでは何が起きたのか一つ一つ整理してみたいと思います。

まず初めに、日銀が7月31日の金融政策決定会合で政策金利を0~0.1%から0.25%へ引き上げると決めました。今回の会合で2026年度まではほぼ2%の物価上昇率が続くシナリオを描き、政策金利を15年7カ月ぶりの水準に引き上げました。

植田和夫総裁が金融政策決定後の会見で追加利上げの可能性を否定しなかったことで、日米金利差の縮小を見込んだ円買い・ドル売りが膨らみ、円は一時149円台後半をつけ、1日で5円超も円高が進みました。

日銀の金融政策決定会合から半日後、米連邦準備理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を据え置きました。政策金利の指標であるフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標は5.25%〜5%を維持し、据え置きは8会合連続となります。FRBのパウエル議長は「9月の利下げ開始もありうる」と名言しました。

FRBのパウエル議長による利下げを示唆する発言を受けて、8月1日の外国為替市場で円相場が一時148円台半ばまで上昇し、輸出関連株を中心に売りが広がりました。

8月2日の日経平均株価の終値は前日比2216円63銭安の3万5909円70銭。下げ幅は1987年10月20日に起きた「ブラックマンデー」の急落(3836円安)に次ぐ歴代2番目の大きさでした。

米景気下振れ懸念が高まり、米金融市場で株式などのリスク資産を売って債券などの安全資産へ資金を移す動きが加速し、8月2日のダウ工業株30種平均は一時前日比900ドル超下げて連日の急落となりました。

そして、8月5日月曜日、日経平均の終値は前週末比4451円28銭(12.4%)安の3万1458円42銭で、米国株安が世界に波及した「ブラックマンデー」の下げ幅を上回り過去最大となりました。下落率でも当時に次ぐ過去2番目です。

背景には米景気不安があります。米労働省が8月2日に発表した7月の米雇用統計で、市場が注目していた非農業部門の就業者数は前月から11万4000人増えました。市場予想は17万〜19万人増です。失業率も4.3%と市場予想の4.1%を上回り悪化し、米景気が悪化するとの懸念から幅広い通貨に対してドルが売られる展開が続きました。

米連邦準備理事会(FRB)が9月に0.50%程度の利下げに踏み切るとの観測が強まり、米金利が低下し、日米金利差の縮小が意識され、円買い・ドル売りの動きが一段と進みました。円相場は一時1ドル=141円台後半まで上昇し、1月上旬以来およそ7カ月ぶりの円高・ドル安水準をつけました。円は、7月中旬に1ドル=161円台をつけていましたが、1カ月足らずで約20円の円高・ドル安が進んだことになります。円高・ドル安が進むたびに日本株が下げ幅を拡大する共振がおこり、東証プライム市場では全体の99%の銘柄が下げ、約6割で下落率が10%を超える暴落となりました。

さて、今回ブラックマンデーを超える下落幅でしたが、ブラックマンデーの背景には何があったのでしょうか?

ブラックマンデーとは、1987年10月19日の月曜日に起こったニューヨーク株式市場の大暴落のことです。ダウ工業株30種平均は、1日の取引で508ドル(22.6%)下落しました。

米国は財政赤字と貿易赤字を抱えており、ドル安に伴うインフレ懸念が浮上したことが原因となります。また、投資家の間で普及していた自動売買プログラム(コンピュータシステム)が、一定価格以上になった株を自動的に売るという機能を作動させたことで、株価の下落を加速させました。こうしてニューヨーク市場の暴落は全世界に波及し、各国で同時株安に陥りました。

当時、アメリカには株価の振れ幅のストップ値が設けられていませんでした。そのため、ブラックマンデーで大暴落を経験したことをきっかけに、ニューヨーク証券取引所で全銘柄を対象とするサーキットブレーカー制度を導入しました。サーキットブレーカーとは、過熱した取引を一時中断することで投資家の過熱感を鎮め、冷静な判断の機会を設けるために取引所が講じる措置です。

ブラックマンデー翌日の日経平均株価は、戦後最大の下落率14.9%を記録しました。しかし、金融緩和政策をとっていた日本は、継続的な影響を回避しバブル期に入り、ニューヨーク市場は深刻な世界恐慌に陥ることなく2年かけて回復しています。ブラックマンデーは売りが売りを呼ぶ連鎖現象が株価暴落につながったといわれています。

ところで、今回の8月5日月曜日の急落は一部では「令和のブラックマンデー」と呼ぶ声もあります。

8月5日の急落の翌日、キヤノンは1000億円を上限とする自社株買いを発表しました。急落した株価をみて割安な水準だと判断し、このタイミングで自社株買いをすることで、会社にとっても株主にとってもメリットがあると考え決定したそうです。他にも多くの日本企業が、相次いで自社株買いを発表しました。

1987年のブラックマンデー後の米国でも株価急落後に自社株買いが広がりました。米ダウ工業株30種平均が1日で23%安を記録した後、IBM、フォードなど主力企業が相次いで自社株買いを発表しました。

不安定な相場が続くなか、明確な好材料のある銘柄に資金が流れやすくなるのです。株価水準が切り下がった企業から自社株買いの発表が相次いだことにより、相場全体の需給改善にもつながっているのです。

最後に、株価が急落するときはいつも同じ光景が市場で繰り広げられています。株価の下げとともに投資家の不安が恐怖へと変わり、パニック売りが広がるのです。もともと米大統領選の前は株価が不安定になりやすいのですが、今回はさらに米景気不安、日米金利差の縮小など様々なことが影響して日本株が米国株を超える下げとなりました。

米著名投資家のウォーレン・バフェット氏は2008年の「株主への手紙」で「株式投資にとって悲観は友、陶酔は敵だ。」とつづりました。投資において下落はつきものであり、とるべきリスクなのです。また、今回のように株価は暴落の最中に急騰することがあります。こういうときこそ冷静に市場を分析する必要があると考えます。

長期投資において今回のような下落は避けられません。そのため、暴落時にしっかりと耐えることができる資産配分、ポートフォリオを最初に決めておくことが大切なのです。

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