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危機が高まる世界経済

『Our Dollar, Your Problem ドル覇権が終わるとき』ケネス・ロゴフ氏の最新刊を読んだ。

ケネス・ロゴフ氏は、2011年に世界的なベストセラーとなった『THIS TIME IS DIFFERENT 国家は破綻する』の著者(カーメン・ラインハートとの共著)である。

イェール大学を首席で卒業、1999年にハーバード大学教授に就任し、2001年から2003年までIMF(国際通貨基金)チーフエコノミストを務めた。チェスの天才としても知られているが、彼の著書を読むと綿密な調査、鋭い分析、その洞察力に感嘆させられることがしばしばである。

『ドル覇権が終わるとき』の最終章 ドルによる平和の終焉? の冒頭の文章を以下に紹介したい。

伝説的なチェスのグランドマスターであるデンマークのベント・ラーセンは、幸運と実力のどちらに恵まれているのがいいかと質問されて、両方と答えた。まさにその二つが、戦後のアメリカドルの経済的軌跡を表している。だがアメリカ人は、『幸運』のほうを忘れてしまうことが多すぎるようだ。もしロシアが1960年代半ばに経済を自由化していたら、もし日本が1980年代半ばにドル高是正に反旗を翻していたら、フランスが2001年にギリシャのユーロ加盟を強く主張しなかったら、中国が2010年年代に全面的な変動相場制に移行していたら、ドルはいまでも最強通貨かもしれないが、今日ほど突出してはいないだろう。いま挙げた『もう一つの現実』のうちどれか一つでも起きていたら、アメリカの金利はもっと高くなり、ドルの法外な特権は小さくなっていたはずだ。

ケネス・ロゴフ氏は、ドル・ブロックが形成された理由として、戦後期に傑出した大統領とFRB議長がいたこと、彼らの功績が大きかったことを挙げ、一方または両方が凡庸な人物だった時期も乗り切ることができた。また今まさにアメリカは国家が分断されるような軋轢が起きているにもかかわらず、ドルは基軸通貨として君臨しているが、今後もドルが基軸通貨であり続ける、あるいはこれまでの80年間と変わらず安定していると考えるのは間違いである。むしろパックス・ダフー(ドルによる平和)は最盛期を過ぎたと考えるべきであるとしている。

現在の大統領は凡庸というようなレベルではないし、大統領から恐喝されFRBの独立性が脅かされている中でパウエル議長の後任にはケビン・ウォーシュ元FRB理事が就任予定である。そして米最高裁は20日、トランプ大統領が導入した相互関税などを違憲と判断した。トランプ氏はその後、各国からの輸入品に150日間の期間限定で10%課税する大統領令に署名。そして翌21日にはその税率を15%に引き上げると表明した。

もはや法と秩序のかけらもない米政権の行動は、世界から孤立を深めており、これはロシアや中国などを利する形になりそうである。世界におけるアメリカの地位は、急激に低下しているようである。

最近の金価格の上昇は、インフレのみならずドルの信認低下によるところが大きい。基軸通貨ドルの力が弱まり、トランプ政権の暴走で世界ではアメリカをスルーする動きが顕在化している。さすがに金本位制度に戻ることは現実的には不可能であるし、現時点でドルにとってかわる通貨が見当たらないため、当面はドルが基軸通貨としての役割を果たすと思うが、ロゴフ氏の言う通り、どこかのタイミングでドルの時代は終わるのかもしれない。

基軸通貨に限らず人間は、自分の限られた経験に基づいてのみ判断する傾向がある。例えば日本は、バブル崩壊後の『失われた30年』とも言われた厳しい時期を経験しているが、多くの人(特に若い人)は、物心ついたころから、デフレと低金利は当たり前のものとなっていた。よって20年も30年も続いたことは当たり前となり、その状況がこの先も続いていくという風に考えてしまうのである。例えば住宅ローンやマンション投資等の際の借金は、変動金利で借りるのが当たり前となっているようで90%の人が変動金利で借りている。もう日本の金利は上がらないと思い込んでいる人が多い中、近年の世界的なインフレや長らく続いている日銀の金融緩和や円安の影響もあり、いよいよデフレの日本にも物価上昇の波が来たのである。もちろんデフレよりもインフレのほうが良いが、あくまでもマイルドなインフレでないと生活者は困ってしまうのである。日銀は金融正常化のためにも実質賃金がマイナスの状況を打破するため慎重に利上げのタイミングを計っている。しかしながら、先進国ワーストである財政のさらなる悪化懸念もあり、なかなか利上げに踏み切れないようだ。

結果的に意図しているのか、そうでないかはともかく巨額の債務を抱える日本政府がインフレをある程度容認し、日銀が低金利政策をとることは、まさに金融抑圧(ファイナンシャル・リプレッション)に他ならない。債務で苦しむ国家がとる常套手段であることは、ケネス・ロゴフ氏の『国家は破綻する』にも書かれている。

世界第一位の経済大国アメリカの信認低下。第二位の中国もデフレからの脱却に苦闘している。欧州先進国や日本も防衛費などの拡大に伴う財政悪化によって、マクロでみると世界経済は厳しい状況が続きそうである。世界経済は、近年AIや半導体関連のセクターが成長エンジンとしての役割を果たしてきたが、AIバブル崩壊の懸念も高まっている。成長のセクターは、もはやAIや半導体に依存する状況ではなく、次のステージに入ってきたと考えている。

株式投資においては企業の未来の本質的な価値を見極めること、債券投資においてはデフォルトを避けるために適切に分散することが重要である。そして不確実性の高い局面こそ、リスク許容度に沿った資産配分を維持することが重要である。今後も予期せぬ事態が起きることは確実である。アメリカでもインフレが落ち着いてきたとの論調が目立つが、未だに物価は高止まりしており、今のトランプ政権のままではインフレ再燃の可能性もあるだろう。今こそ分散投資でマーケットの中で適切なリスクをとっていくことが大切である。

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