株式会社スノーボール

2025年のおわりに

人生において、ある出来事をきっかけに世界が大きく変わったと感じる体験は、そう多くあるのものではない。私のこれまでの人生で一番記憶に残っている出来事は、当時大学1年生の時、1989年11月9日のベルリンの壁崩壊であった。

当時テレビから流れてきたベルリンの壁が壊される衝撃的な映像に興奮したことを今も鮮明に覚えている。まだ携帯電話もインターネットも世に普及する前、日本は、バブル真っ只中の時代であった。まだ世界の事は何も知らないお気楽な学生であった私でさえも、これから世界は大きく変わるかもしれないと直感的に感じたものだ。その後の1990年10月の東西ドイツの統一、東欧諸国の民主化、そしてソ連崩壊による米ソ冷戦終結へと雪崩をうって世界の歴史は大きく動いていったのだ。

ベルリンの壁崩壊は、その後のアメリカを中心とする西側先進国によるグローバリゼーション拡大の起点となったと確信している。日本では1989年1月7日に昭和天皇の崩御により、元号が平成に変わった。6月3日には中国で天安門事件が起きた。日本のバブルが膨らみ、まさにピークを迎えようとしていた1989年は、歴史の大転換の起点となった。その後、バブルは崩壊、長い低迷が続くことに。一方の米国をはじめとする西側先進国は、グローバリゼーションの拡大とともに凄まじい勢いで成長を続ける。ITやスマートフォン、SNSなどの出現、中国を筆頭に新興国の経済成長によって、世界経済は拡大した。2008年の金融危機や欧州債務危機は、世界経済にダメージを与えたが、その後も世界経済の成長基調は継続し、マーケットも回復した。近年もコロナ禍やロシア・ウクライナ戦争等の影響を受けつつも、AIや半導体関連のニューテクノロジーが生まれ、世界経済の新たなエンジンとなっている。

さて今年2025年は、昭和100年にあたるそうだ。ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏は、年初に今年の10大リスクの第一位に『Gゼロ世界の混迷』をあげたが、まさに4月2日に世界に発表されたトランプ関税は、彼の予想を超えるほど世界を混迷させる出来事であった。1989年のベルリンの壁崩壊以降、世界の覇権国として君臨してきたアメリカは、その覇権国の地位から自ら降り、世界に背を向けるような態度をとっている。世界はリーダーなきGゼロ世界となり、今なお混迷を続けている。2025年は、1989年と同様に世界経済、社会そして歴史の大きな転換点となるだろう。

ブレグジッド、コロナ禍、ロシア・ウクライナ戦争そしてトランプ関税を経て、世界経済におけるグローバリゼーションは終焉した。マグニフィセント7をはじめとする巨大ハイテク企業が世界を牽引しているが、成長のエンジンは、AIとなっている。AIの発展は、世界の課題を解決し、世界の人々を豊かにする可能性がある一方、AIによる犯罪、AIの悪用は、人類にとって大きな脅威ともなっている。またAIビジネスの覇権争いは過熱しており、過剰投資によるバブル懸念も大きくなっており、予断を許さない状況がしばらく続きそうである。

そんな中、日銀は12月19日の金融政策決定会合で政策金利を30年ぶりの高さとなる0.75%に引き上げることを決めた。債券市場では、新発10年国債の利回り(長期金利)は、一時2.02%と26年ぶりの高さまで上昇した。日本のバブル崩壊後の『失われた30年』とも呼ばれた時期に続いたデフレは終焉し、日本の物価にも上昇圧力がかかっている。『デフレ』から『インフレ』に『金利なき世界』から『金利のある世界』へ大きく変化してきた。日銀の利上げに関しては、今後も続く可能性が高いし、黒田日銀時代の異次元緩和の正常化の流れであり、当然の流れである。依然として物価を考慮した実質金利は大きなマイナスとなっており、FRBの利下げ、日銀の利上げにもかかわらず円安は解消されず、放置されたままである。トヨタをはじめとする製造業が経済を牽引してきた日本では、円安が経済を潤してきた面もあるが、今は行き過ぎた円安であり、日本経済にとって大きなマイナスである。私たちの給料や年金でもらう円は、知らず知らずのうちに先進国中で最弱通貨となってしまった。円安、円の購買力低下は、日本人を貧しくしている。あらためて、資産運用において、『ここに置いておけば安全』といえる資産は、ないのである。

私たちファイナンシャルアドバイザーの最大の使命は、顧客の『フロー』と『ストック』の最適化をサポートすることである。世界経済や社会が大きく変化する時代において、個人も企業も国家も変化に対応することが望まれるが、この大きな変化に対応できない『個人』『企業』『国家』は、今後ますます厳しくなるだろう。

デフレの時代は、低金利の預金をしていても物価が上がらないので、大きな問題にはならなかった。しかしインフレの世界では、預金は実質的に目減りしてしまう。債券運用においても、必ずしも先進国の国債が安全とは限らない時代になってきた。米国債など先進国の国債だけではなく、新興国(エマージング)の国債への分散、投資適格社債、ハイイールド債券などへ幅広い分散投資が重要である。株式投資においてもS&P500やオルカンに分散投資すれば良いなどという単純な話ではない。世界経済が順風満帆な時代は、幅広い銘柄に分散投資するだけで良かったが、世界経済は曲がり角に来ているのだ。

2025年以降の世界経済は、全体的に厳しくなることが予想される。世界第1位の米国経済にも減速の傾向が見られているし、第2位の中国経済もかつての日本のようなデフレスパイラルに陥っているのだ。

世界経済は、今後も成長するものの先進国、新興国ともに成熟期に入っており、世界の高度成長期は終焉したと考えるべきだろう。経済が成熟するとビジネスのパイの奪い合いにおいて、より強い企業が勝者となる一方で競争に負けた企業は敗者となり、企業間格差は大きくなるのは当然である。今、AIの覇権を握るために世界の巨大ハイテク企業がしのぎを削っている。もちろんAIや半導体セクターだけではなく、各セクターにおいて勝者と敗者が鮮明になる可能性が高い。世界経済の中で価値ある企業は、どこなのか?世界の課題を解決できる企業はどこなのか?そのような視点で世界中の企業をリサーチして、成長する企業を選別できる運用会社は、ごく少数に限られている。株式投資が好きな個人を否定するつもりはないが、機関投資家などプロの投資家がしのぎを削る今のマーケットで脆弱なリソースしかない個人投資家が勝つことはまず不可能である。たまにまぐれで勝つことはあったとしても、長期的には『敗者のゲーム』となることは間違いないだろう。

パーソナルファイナンスにおいても住宅ローンや生命保険、資産運用などの意思決定において大きなミスをすることは致命傷となってしまう。混迷の時代である今こそ基本に立ち返り、ファイナンシャルアドバイザー(IFA)としてお客様のフローとストックの最適化をサポートしていきたい。

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