
今回は、今年1月から現在までの「日米欧の金融政策」と「ドイツの財政政策」2つの内容をテーマに取り上げます。
はじめに、1つ目のテーマ「日米欧の金融政策」についてです。
日本では、1月24日に日銀が金融政策決定会合で政策金利とする短期金利を0.25%から0.5%へ引き上げる、利上げ策を実施しました。利上げは昨年7月以来で、政策金利の0.5%は17年ぶりの水準でした。利上げに踏み切った理由としては、昨年に引き続き企業の賃上げの意欲が強いこと、基調的な物価上昇率が2%に向けて徐々に上昇していること、トランプ政権の経済政策に関わる不確実性がある中でも、国際金融市場は全体として落ち着いた状況であったことがあります。3月14日と5月1日の金融政策決定会合では、政策金利を0.5%に据え置きました。米国の関税政策の動向や日本の経済・物価への影響を引き続き慎重に見極める考えです。
米国は、3月19日にFRBが金融政策を決める会合を開きましたが、利下げを見送り、政策金利を据え置くことを決定しました。FF金利の誘導目標は4.25%から4.5%のままです。経済活動は底堅いペースで拡大し、失業率もこの数か月間低い水準で安定しているとした一方、インフレ率については高いままだとしています。5月7日も利下げを見送り、これは3会合連続の据え置きでした。パウエル氏は物価安定と雇用の最大化というFRBの2つの使命について、いずれも今年の残りの期間をかけて目標から離れていく可能性が高いと見通しました。雇用を支えようと利下げを急ぐと物価が高止まりする場合があるので、慎重に考慮するといいます。さらに、トランプ政権の政策の影響で安易に利下げできない状況です。
欧州は、1月30日に政策金利を3%から2.75%に、3月6日に政策金利を2.75%から2.50%に下げました。4月17日にも0.25%引き下げ、これは7会合連続の利下げでした。
日本はなかなか金利を上げられず、米国はなかなか金利を下げられず、欧州は段階的に金利を下げているという動きの違いがあります。
続いて、2つ目のテーマ「ドイツの財政政策」についてです。3月22日の日経新聞朝刊で、欧州最大の経済大国ドイツが巨額の財政拡張に動くという記事を目にしました。今後10年あまりで国防費やインフラ投資に充てる追加の財政支出は1兆ユーロ(約160兆円)規模に達する見通しで、厳格な債務抑制から歴史的な転換を進め、欧州安全保障の強化と経済再生へ大きな賭けに出たのです。
ドイツは財政が健全すぎるほどに健全なことで知られています。今まで、ドイツは憲法に相当する基本法で財政赤字の膨張を防ぐ債務抑制策を定めてきました。メルケル前政権の2009年に制度化された仕組みで、主要7ヵ国(G7)でも屈指の健全財政を守ってきた半面、巨額の資金が必要な政治局面では身動きがとれません。思い切った財政出動には改憲が必要でした。
憲法で財政規律が守られている面と、これまでのロシアの安価なエネルギーと勤勉な労働力を背景に製造業中心の産業構造が機能し過度な財政政策の必要性がなかった面もあるようです。しかし、構造変化もありドイツの景況感は悪化しています。
米ゴールドマン・サックスは、GDP比の財政赤字が24年の約2%から27年には最大4.5%まで上昇すると予測しています。過去半世紀で同水準を超えたのはオイルショック後の1975年と、旧東独地域への経済支援に資金を回した東西ドイツ統一後の95年だけです。倹約国ドイツの歴史的な方針転換は大きな危機感の表れだといえます。
ドイツ経済は2024年に、東西統一後で1度しかなかった2年連続のマイナス成長に陥りました。直面する課題は高齢化に伴う人手不足やデジタル化の遅れなど国内の構造問題があります。また、独経済の屋台骨である自動車産業ではEV販売の不振、中国でのシェア低下、リストラが相次ぎ、特に最近EVで台頭する中国勢に対して競争力低下に危機感があります。他にも、不安定な政治状況にあることや、地政学リスクなどもドイツが軟調な理由です。ロシアからの安価なエネルギーに依存していたビジネスモデルは、ロシアのウクライナ軍事侵攻以降、構造的な見直しを迫られました。しかし、脱原子力発電など進める中で、コスト高解消のめどはいまだにたっていない状況です。
ただ、このような環境下でもドイツの株価指数であるDAXは4月末時点で年初来13%高と高値圏で推移しています。経済状況と株価は必ずしも一致していないのです。以上のことから、金融政策および財政拡張の両面で追風を受けるドイツの今後に注目していきたいと思います。