株式会社スノーボール

トランプ関税に揺れる自動車業界

当社では毎朝30分間、日経新聞の読み合わせを行っておりますが、トランプ大統領の話題には心底飽き飽きしています。昨日の記事と翌日の記事の内容が一変することが頻繁に見受けられ、苦笑せざるを得ません。

初めに、4月のトランプ政権による関税政策に関連する出来事を時系列順に整理します。(下記、日経新聞をもとに米現地時間で作成)

4月2日 米国への全ての輸入品に相互関税を適用することを発表

4月3日 米国向け自動車に25%の追加関税を発動

4月4日 中国、米国に対し報復関税34%の適用を表明

4月5日 米、相互関税のうち全ての国・地域に適用の基本関税10%を発動

4月9日 米、相互関税第2弾発動、日本は24%、中国は累計104%

      中国、米国への報復関税を50%引き上げ84%へ

4月10日 (上記から13時間後)米、一部の国・地域に対して相互関税の上乗せ部分の90日間一時停止を発表

4月11日 米、スマホや半導体製造装置も「半導体」に含め、相互関税の対象から外す意向

      中国、米国製品への報復関税を84%から125%に引き上げ

4月13日 米、輸入するスマートフォンなどの電子機器を半導体関連にかける分野別関税の対象とする方針に変更

4月14日 米、自動車関税の一部見直し検討

4月16日 日米関税交渉の初会合

4月24日 日米財務相会談

4月26日 米、自動車運搬船に入港料を課す方針

以上まとめましたが、AIもファクトチェックに困るレベルで日々発表内容が変わっています。4月2日、相互関税の一覧表が書かれたボードを掲げたトランプ・ショックを皮切りに、世界中は混乱に陥り、4月9日、金融市場で米国の株式、債券、通貨がそろって下げる「トリプル安」に見舞われました。さすがのトランプもこの状況に怯んで、上乗せ関税を一時停止したり、報復関税で反発する中国に莫大な関税で応戦したり、と混乱の渦はますます広がっています。

このような状況下、今回は日本の主要産業である自動車業界の現状について着目します。

関税の影響により設備投資や輸送コストなど、製造業に与える負のインパクトは非常に大きく、世界各国の自動車メーカーは今後の戦略転換を迫られています。そもそも日本の自動車メーカーをはじめ、各社はこれまでアメリカ国内や近隣のメキシコ、カナダに工場を建設し、生産から販売までの効率化を図ってきました。しかしながら、関税政策の影響により、各国の輸出入が制限され、経営戦略の抜本的な見直しを余儀なくされている状況です。それに対して各企業はどのような戦略や打開策を打ち出しているのか、その具体的な事例についてまとめました。

例えば、ホンダは米国向けのハイブリッド車に必要な電池をトヨタから調達する方針を決定し、加えて中国のAIスタートアップ企業ディープシークの音声対話機能を搭載することで、他社との差別化を図っています。一方、スマートフォンの受託生産を手がける台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)は、その技術力を活かしてEV(電気自動車)事業に参入し、三菱自動車のEVを受託生産することで、製品ラインナップの拡充を計画しています。また、トヨタは関税によるコスト増加を価格に転嫁せずに維持する方針を示し、新車種を拡充する予定です。スマートフォンで著名なファーウェイのOSを搭載したEV開発や自動運転システムに強い中国企業のモメンタと共同開発を進めています。

このように、かつて激しい競争を繰り広げてきた各社が連携し、「敵の敵は味方」と言わんばかりの動きを見せているのは興味深い点です。アメリカを除く市場において、どのようにサプライチェーンの再編を進めるのかという点で、日中の協業が注目され、輸出先として東南アジア、南米、オセアニア、アフリカ等への供給網分散が進んでいます。

また、中国国内では米中貿易摩擦や不動産不況、消費の低迷による経済成長の鈍化が続いており、ホンダや日産は現地の工場を閉鎖・休止しました。ポルシェ、メルセデス・ベンツなどのドイツメーカーも利益減少に見舞われ撤退し、ポルシェはドイツ国内の従業員1900名を削減する計画にまで至っています。

こうした状況を受け、中国国内では国営中心の旧態依然とした経営体制を改め、技術革新のスピードや企業のガバナンスを向上させるため、民営企業を再評価すべきだという動きが強まっています。その代表格がBYDです。バッテリー技術を強みとする中国のEVメーカーで、わずか5分の充電で約400キロもの走行を可能とする技術力を持ち、将来的にはガソリン車以上の燃費性能も期待されています。過去5年間で売上を6倍に拡大し、2024年10〜12月の新車販売台数では世界5位と、4位の米ゼネラル・モーターズを追随し、トップのトヨタにも迫る勢いです。

では、渦中のアメリカ国内ではどのような状況にあるのでしょうか。世界の注目の的となっているテスラは、昨年11月米大統領選挙からの短期間で大打撃を受けています。イーロン・マスクCEOによる政府効率化省(DOGE)での極端な人員削減に端を発し、その影響で欧州ではテスラ車の不買運動が過激になりました。また、欧州各国ではコカ・コーラの代替品がメディアで流れ、スーパーの米国製品を後ろ向きに並べた写真の投稿も散見されました。さらに独ベルリン郊外での反対運動により、路上に止めていたテスラ車が放火され、販売店の壁に落書きをされるといった事件が相次ぎました。イーロン・マスクは自身のXにて、本人自らハンマーで自社製品のサイバートラックを何度も殴りつけ、「襲撃されても問題はない」というメッセージの動画を投稿するほどに。4月22日に発表された1〜3月期決算では、営業利益が前年同期比66%減の3億9900万ドル(約560億円)と事態の深刻さを物語っています。

今もなお、トランプ大統領の予測不可能な行動に世界は翻弄されていますが、自動車業界の状況からわかるように、不測の事態における企業の生存戦略や意思決定は注目に値します。景気や外部環境に左右されず、変化への適応力をもつ企業と、権力に群がり現状維持を続けようとする企業との格差はますます広がっていくでしょう。混迷の中でも絶えず策を講じることのできる優れた企業は、たとえ景気が悪くなろうとも高いパフォーマンスを発揮するために尽力し勝ち残ります。そのような強い企業はどこなのか?という観点を持ち続け、今後も着目してまいります。

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