株式会社スノーボール

ディープシーク・ショック

今、中国の人工知能(AI)開発企業、DeepSeek(ディープシーク)が話題になっています。

DeepSeekの梁文鋒最高経営責任者(CEO)はオープンAIのサム・アルトマンCEOと同じ1985年生まれで、AI研究で知られる浙江大学を卒業し、資産運用会社のHigh-Flyer(ハイフライヤー)を立ち上げました。

同社はクオンツ運用(高度な数学的テクニックを駆使して市場データを数理分析的に扱い運用すること)に強みがあり、運用資産は約80億ドル(約1兆2000億円)と報じられています。

梁氏はハイフライヤーの子会社として2023年にDeepSeekを設立しました。米調査会社CBインサイツによるとDeepSeekは外部から資金調達はしておらず、AIの開発費用は親会社から拠出されているとみられています。

ほぼ無名だった中国のスタートアップが注目を集めるきっかけとなったのは、米CNBCテレビの報道でした。DeepSeekが安価で性能の低い半導体を使って構築したAIモデルがシリコンバレー全体にパニックを引き起こしていると伝えたのです。

米オープンAIやソフトバンクグループ(SBG)などがAIの開発インフラに5000億ドル(約77兆円)規模の資金を投じると表明した一方で、DeepSeekは1つのモデル開発にかかった費用が約560万ドル(約8億6000万円)、開発期間は約2カ月だと説明しています。

情報だけが一人歩きしているように見えますが、もしDeepSeekの主張が正しければ、これまで信じられていた常識である「スケーリング則」(データ量や計算資源などが大きいほど性能が高まる)が覆る可能性があるとの懸念から、1月27日の米株式市場でエヌビディアの株価は17%安、ブロードコムも17%安、電力大手コンステレーション・エナジーは21%安とAI関連株が軒並み下落しました。エヌビディアの企業価値はDeepSeekの登場からわずか1週間で約5500億ドル(約85兆円)消失したのです。

さて、個人的にはDeepSeekの台頭は、そこまで大きなサプライズではありませんでした。競合他社が次々と出てくることが予想されているので、エヌビディア一強体制はそう長くは続かないと考えていたからです。

しかしながら、米中対立の影響で、苦境の中国から新興企業が次々出てくるきっかけになったことは大変興味深いです。円安による利益増に安住して技術開発の努力を怠った日本企業に対して、中国は自国での技術革新に力を入れていたのだと思います。

直近はDeepSeekの台頭を機に香港株が急騰しています。AI関連のテック銘柄に資金が流入しており、アリババ集団の株価は1月末比で約4割上昇、22年1月以来約3年ぶりの高値圏にあります。米アップルとのAI事業での提携も下支え要因です。

他にも、スマホ大手の小米集団(シャオミ)、ネットサービス大手のテンセント、出前アプリの美団、電気自動車のBYDなど幅広い銘柄が上昇し、景気失速で中国から離れた海外マネーが戻ってきています。

また、アリババ集団は今月24日にDeepSeekが開発した生成AIなどを契機にAI関連の需要が急増するとみて、今後3年でクラウドとAIの基盤設備に少なくとも3800億元(約7兆8000億円)を投資すると明らかにしました。アリババはすでに投資拡大に乗り出しており、ファーウェイやテンセントも2月上旬までに自社のプラットフォーム上でDeepSeekの基盤モデルを利用できるようにしています。

2023年以降、不動産不況を背景に海外マネーの中国離れが鮮明でしたが、DeepSeekの出現をきっかけに中国株の再評価の動きが加速しています。今後の中国のテック銘柄の行方に注目していきたいです。

※今回のコラムの写真は先日訪れたタイのプーケット旧市街です。