
2025年1月トランプ大統領就任後のマーケットは、やや落ち着きのない展開となっているが概ね想定通りといったところだろう。
アメリカ経済は依然として底堅く、ソフトランディングよりもノーランディングの様相である。トランプ関税と移民そして減税政策によってアメリカには当面、物価上昇圧力がかかるだろう。トランプは、FRBに利下げ圧力をかけているが、パウエル議長は利下げは眼中にないと思う。2025年の利下げは1回か2回というのがマーケットのコンセンサスであったが利下げ無しの可能性が浮上してきた。カナダやメキシコに対する関税、パナマ運河やグリーンランド、ガザ地区、メキシコ湾、ロシア・ウクライナ問題、日本製鉄から紙のストローにまで口出しするトランプ劇場に世界は翻弄されているが、バイデンでもトランプでも誰が大統領でもアメリカ経済はやはり強い。
アメリカも人種や格差など様々な問題を抱えていることは間違いないが、先進国で唯一労働人口が増えていること、リスクをとる投資によりイノベーションが育まれマグニフィセントセブンのようなスター企業が次々と出てくる。経済を牽引する主役が、莫大な富を生み出して更に投資をして、世界をリードする。今のところアメリカ以外に世界経済を牽引していく国は見当たらない。
さて日本はどうだろう?景気が厳しい欧州や中国と比較すると現在の日本は、世界の中で相対的に良いように見える。だからと言って日本の未来は安泰とは程遠いと思う。1990年代のバブル崩壊後の長く続いた低迷を経て、ようやくデフレスパイラルから脱却したことは喜ばしいことであるが、2023年の名目GDPでは人口が3分の2のドイツに抜かれ世界第4位となったし、数年内にはインドに抜かれ5位となるだろう。また2024年には韓国や台湾にも一人当たりGDPで抜かれてしまった。驚くことに日本の一人当たりGDPは、1990年半ばから30年殆ど伸びていない。『失われた30年』は、単なるキャッチコピーではなく真実であったのだ。
2000年頃からデフレが始まり、その悪いスパイラルが20年以上続いた。これほど長く経済が低迷した国は、世界の歴史で日本だけだろう。2024年2月22日に日経平均株価は終値で3万9098円となり、1989年12月29日につけた史上最高値3万8957円を34年ぶりに更新した。ちなみに2月22日は、取引時間中にエヌビディアの好決算によって日本株も大きく上昇したのだが、34年ぶりに主要株価指数が高値を更新した国は、世界の歴史で日本だけだろう。
個人的には当時と今の日経平均株価の比較にさほど意味があるとは思えないが、この30年で日本とアメリカの経済格差が拡大したことは間違いない。
私がはじめてアメリカに行ったのは1990年、大学2年の夏だった。サンフランシスコからLA、サンディエゴ、シカゴ、オーランド、ニューヨークを1カ月間周遊し、アメリカの大きさを目の当たりにした。しかし、当時1990年のアメリカの景気は悪く、日本はバブル絶頂期であった。アメリカの魅力は大いに感じることが出来たが、豊かさという点で日米の大きな違いは感じなかった。日米貿易摩擦が激しくなったころであったし、今思えば日米の経済格差が最も小さくなった時だったのかもしれない。その後1994年にサンディエゴを再訪した際にメキシコの国境の街ティファナ(*写真は2021年に息子が撮影)を訪れた。検問所を通過し、国境を越えた瞬間に物乞いや少女が花を売りに来る。道路はボロボロで舗装もされていなかった。建物は汚く見るからに怪しい雰囲気が漂っている。私が初めて国境を意識したのはこの時が初めてであった。なぜ検問所を隔てるだけで豊かなアメリカと貧しいメキシコの違いが出るのだろう?カリフォルニアの温暖な気候と肥沃な土地という点ではティファナも全く同じであるにも関わらず。ベルリンの壁を隔てた当時の東西ドイツ。韓国と北朝鮮のように政治体制やイデオロギーの違いによる経済格差は分かりやすい。一方でマレーシアのジョホール・バルとシンガポール、サンディエゴとティファナの経済格差の要因は、当時の私にはなかなか理解が出来なかった。
果たして日本とアメリカの経済格差の原因は何であろう?
日本人とアメリカ人のどちらが優秀であるか?という問題ではないし、地理的な問題や自然環境でもない。資産運用において一例を挙げると平均的なアメリカ人が日本人より賢くて資産運用が上手ということでは決してないのである。確かにアメリカは、金融先進国であることは間違いないが、国民一人一人の能力において両国の差は殆どないと思う。しかし、両国には決定的な違いがあると思う。401K(確定拠出年金制度)の制度設計の違いはそれを象徴しているように思う。
401k(確定拠出年金制度)がアメリカで始まったのは1981年。日本はアメリカに遅れること20年、2001年にスタートした。1946年~1964年に生まれたアメリカのベビーブーマー世代は、第二次世界大戦後のアメリカの繁栄を享受し、地球上で最も裕福な世代ともいわれているが、ベビーブーマー世代の多くの人が401Kを活用し、資産運用でお金を増やしたことは間違いない。
アメリカの401Kの投資信託は、日本と違って元本確保型の商品等は皆無であり、基本的には株式型の投資信託を選択するようになっている。制度設計において預金や国債などは長期的にインフレに負けることが考慮されており、株式で運用することが前提で当たり前となっている。預金や債券に比べて株式はインフレに強い資産なのだ。一方の日本の確定拠出年金においては、運用が怖いという人に対する配慮なのか元本確保型の商品がラインナップに必ず加えられており、長期投資を理解していない人たちが元本確保商品を選んでいる。当然であるが長期ではインフレに負けてしまう結果、せっかくの資産形成の機会をみすみす逃しているのである。アメリカのベビーブーマー世代の平均純資産は、1億5000万円強とも言われているが、401K制度がアメリカ人の資産形成に大きく貢献したことは間違いない。
アメリカ人が日本人やメキシコ人より賢いわけではなく、401Kの制度設計にあるように社会の仕組みや制度などが優れているということである。もちろん制度設計をする人が賢いということは間違いない。日本では賢い人が決めるのではなく、みんなで決める。何か問題があってはいけないので、とにかく問題が起こらないように安全安全に考える。確かに短期的には安全かもしれないが、長期では全然安全ではないといったことが起きてしまう。日本人は預金とビットコインが大好き、元本確保とギャンブルであり、両極端である。株式や債券による王道の運用における成功体験が乏しい。私たちファイナンシャルアドバイザーの役割は非常に大きいと思う。
さて日本の組織は、官僚組織に代表されるように非常に硬直的である。規制緩和などを含めて、物事が一向に前に進まないのが日本である。もちろん日本だけではない。インドや中国、欧州なども社会は硬直的であると思う。その点でアメリカ社会は、硬直的ではないと思う。世界から移民を受け入れ、その子どもや孫、実に多様な人材がアメリカンドリームを体現している。失敗も多いのだがとにかく物事を前に進めて果敢にチャレンジするのがアメリカである。アップルの創業者スティーブ・ジョブズの父はシリアからの留学生であった。ウィスコンシン大学の同級生であったドイツからの移民の女性と結婚し、ジョブズが生まれたが、そのジョブズを養子に出したそうだ。イーロン・マスクは南アフリカ出身、エヌビディアのジャン・スンファンは、台湾生まれで9歳の時に家族で渡米している。グーグルの設立メンバーであるセルゲイ・ブリンはロシア生まれで6歳の時に家族と渡米している。
ニューアメリカン経済研究基金が2019年に公表したレポートによると、移民はアメリカの総人口の14%程度であるが、フォーチュン500のうち移民もしく移民2世が創立した会社は223社。特にIT産業では特に顕著であり、IT革命はアメリカに来た中国人とインド人によって実現されたといわれるほどである。メジャーリーグにおいても、大谷を筆頭に日本人が大活躍していることは素晴らしいが、メジャーリーグのスター選手は、もはやアメリカ人だけではなく世界から才能を持った選手がメジャーリーグという舞台で世界一を目指しているのだ。
トランプの移民政策はこのようなアメリカ経済の現状を踏まえると長期的にはマイナス要因である。しかしトランプは4年後にいなくなるし、そもそも彼の政策は選挙のためのパフォーマンスであるため、選挙に勝利した今となっては現実路線をとるだろう。一方の日本は、介護などの現場で外国人を受け入れているものの、外国人労働者は約200万人程度とアメリカの移民約5000万人と比較すると桁違いに少ない。人口減少と移民受け入れに消極的な日本では既に人手不足は深刻な問題となっている。医療介護の現場における人材不足は、医療崩壊につながり、既に国を弱体化させていると感じている。移民の是非などの議論をしている間に昨今の円安もあって日本の給料は先進国で一番安い。高度な技術を持った外国人が日本で働くメリットは殆どない。彼らが日本で生活するメリットは美味しいものを食べることくらいだろう。しかしながら海外から観光客が日本に来るだけでは、経済は良くならない。安いだけでは国際競争力は高まらないのである。アメリカのように優秀な海外からの人材が日本で活躍できるような社会の仕組みを整えなければ、ならない。1990年に初めてアメリカを訪問してから35年の月日が流れた。日米経済の格差は、私の知る限り最大に広がっている。
豊かなアメリカと貧しい日本という構図が鮮明である。石破さんとトランプの会談やフジテレビや日産やホンダの薄っぺらい報道ばかりが目立って、あまり本質的な物事がニュースで報道されることはないが、超高齢化社会による人口減少かつ慢性的な労働力不足に悪い円安が追い打ちをかける中で外国人労働者の受け入れに消極的な日本は、歴史的にも大きな岐路に立たされていると感じている。