ウォールストリートジャーナル10月21日の記事にHENRY(ヘンリー)という言葉を見つけた。
『high earner,not rich yet(HENRY=高所得だが、まだ裕福ではない)』と呼ばれる米国人のぜいたくとは言えない生活の実態だそうだ。
記事によると、『米国の国勢調査によると年収20万ドル(約3000万円)超の世帯は14.4%を占め、過去最高水準である。だがそのお金は稼ぎ手が望むほどの購買力を持っていない。われわれ全員を直撃する物価高に加え、住宅や車といったものが高騰していることが要因だ。HENRYたちはハムスターの回し車に乗っている気分だと話す。ほかのハムスターがうらやむ立派な回し車ではあるが、同じ場所を走っていることに変わりはない。』
平均的なアメリカ人の所得は、平均的な日本人の所得の2倍以上であるが、昨今の物価、住宅、車、教育費などの高騰によって所得の高い米国人にとっても必ずしも裕福な暮らしとは言えない状況にあるようだ。
さて日本の個人金融資産は2000兆円を超えており、アメリカに次いで世界第2位である。第1位のアメリカの個人金融資産は日本の6倍以上とダントツの世界一であるが、日本人も結構お金を持っている。ただ日本の個人金融資産の半分以上の1000兆円超が金利の低い預金に置かれており、預金の8割超は65歳以上の高齢者の預金である。金融資産の半分以上が株式や投資信託等リスク資産であるアメリカと預金に偏重している日本人のポートフォリオは対照的である。このポートフォリオの違いが、30年間で日米の個人金融資産の大きな格差となったのである。
NISAやIdecoで日本も少しずつ投資資金は増えているものの、高齢者の預金は、現実的にはなかなかリスク資産に向かうことはないため、やがて多くの預金は相続されていくことになりそうだ。特に富裕層の場合は相続税の負担も大きいため、日本の個人金融資産が増えていくかどうかは、現役世代の資産形成にかかっている。特に若い世代(私たちの子ども世代)が経済的に豊かになることが日本の将来において重要と考えている。
個人的見解であるが親の世代よりも私たちの世代は、豊かになったと思う。さて子どもたちの世代はどうだろう?人口減少、少子高齢化で世界経済の高成長が望めない成熟社会において、国や会社に多くを依存することは困難であり、自分や大切な人の生活を守るためには、個々の人的資産を高めていくこと、自助努力が必要である。
人的資産を高めるためには、自分の適性を見極め、適切な仕事を選択することも大切である。私たちの時代は、就職活動で会社を選ぶといった傾向が強かったが、そうではなく将来的にどのような仕事、職業に就いてプロフェッショナルを目指すのか?といった長期的なビジョンや計画が必要だと思う。専門的な知識や経験を積み自身の人的資産価値を高めれば、必然的にお金を稼ぐことが出来るはずである。人的資産価値の高い人が稼げないとすれば、それは社会や業界、会社あるいは組織に問題があると言えるだろう。
さて当社のお客様の多くは、自身の人的資産を活用して、長年にわたって貯蓄を継続した方である。資産形成における成功者と言っても良いだろう。言葉でいうのは簡単であるが、仕事をして、税金や社会保険料、住居、生活費用を支払ったうえで、長年にわたって貯蓄を継続するということは大変なことである。稼いでも稼いでもなかなかお金が貯まらないといった人も多いのである。資産形成においては貯蓄の習慣が必要であり、当社のお客様を見ても、殆どの方が資産形成の習慣が出来ていることがよくわかる。お金に限った話ではないが、何かを成し遂げるためには、膨大な時間を要するものだ。資産形成で長期的な成果を出すためには、お金を貯める仕組みや計画が必要であり、良い習慣を継続することが大切である。
社会人1年目23歳の息子は、2012年春、11歳になった時にお年玉やお祝いでもらったお金やおこづかいを原資として資産運用を開始した。ちなみにウォーレン・バフェットが10歳から投資を始めたのは有名であるが、バフェットは運用を始める10歳までの10年間について『時間を無駄にしてしまった』というジョークも語っている。2011年、東日本大震災、そして1ドル75円になったころだった。息子が10歳の時に『資産運用をやってみる?』と聞いてみた。当時の息子は『お金が減るかもしれないからやめておく』との回答であった。その1年後にある漫画の主人公の影響により、『資産運用をやってみたい』ということになり、未成年口座を開設し、私の管理の下で運用をスタートした。
息子のこれまでの運用成績であるが2012年から2023年まで12年間の年別成績は、8勝4敗。振り返ると良い年も悪い年もあり、いつも順風満帆ではなかった。2015年のチャイナショックや2016年の英国EU離脱決定、2018年12月の米中摩擦後の世界同時株安、2020年からのコロナ危機、2022年からロシア・ウクライナ戦争、世界的なインフレ等とマーケットは大きな変動にさらされ不安定に推移した12年間であった。今年で運用も13年目に突入しているが、追加投資と複利効果によって運用残高は積み上がり、証券口座残高は、800万円を超えた。息子が稼いだ預金等と合わせると金融資産は1000万円を超えた。1000万円を貯めることは、なかなか難しいのだが、社会人1年目の23歳で達成したことには驚いた。これが長期投資のパワーだと思う。
年齢が若い=リスク許容度が高い 息子のポートフォリオは、原則100%株式型投資信託で運用しており、長年放置している。もちろん小学5年生からの12年間は、本業である勉強やスポーツに取り組んでおり、息子が社会人になるまでは証券口座の残高をチェックすることは殆どなかったと思う。特別に資産運用の勉強をしたわけでもない。ただ長期投資の基本に従って適切なリスクをとり、適切な形で投資を継続した結果なのである。息子の場合は、たまたま私の職業がファイナンシャルアドバイザーであったため、ある意味では長期投資の実験台でもあったが、この12年の成果を見ると複利効果を活用して適切な形で長期投資をすることで、とんでもない結果が生まれることを確信した。
若い世代が豊かになるためには自分を磨いて人的資産を高めることが最優先であることは間違いない。しかし人的資産を磨いて頑張って稼いでも、なかなかお金が貯まらないというのが現実である。そういう意味では資産運用の重要性は、今後ますます高まるだろう。これは若い人に限らず、会社経営においても同様である。頑張って利益を出しても税金も高くて法人の資産を増やすことも大変である。当社も本業であるファイナンシャルアドバイスで稼いだお金(税引後利益)を積極的に資産運用で増やしていく方針である。下手な節税をするのではなく税引き後のお金を資産運用で増やすのが当社の方針である。
さてNISAやIdecoなどを含めて金融教育の必要性が議論されている。若い人に資産運用に興味を持ってもらうための金融教育や投資教育も必要だろう。しかし資産運用の成功体験のない学校の先生などに教育を丸投げするのではなく、私たちのような実務家のもとで資産運用を実践するほうがより効果的だと考えている。当社のお客様においても未成年口座や学生の口座も増えてきている。若い世代が自分たちの世代よりも豊かになるように私たちも微力ながら貢献していきたい。