今月は時価総額について書いてみたいと思います。「時価総額」という言葉は耳にしたことがあっても、具体的に説明できる方はあまり多くはいらっしゃらないのではないでしょうか。私自身もお客様にこういった指標をきちんと説明することに難しさを感じておりますので、これから一つずつ紐解いていきたいと思います。
まず初めに、時価総額(market capitalization)とは一体何か。
時価総額は、「株価×発行済株式数」で計算されたもので、個々の企業や市場の規模をみるために利用する指標です。
例えば、A社の株価が1000円で発行済株式数が100万株である場合、上の公式に当てはめますと、A社の時価総額は10億円となります。
次に、株価と発行済株式数について説明していきます。
「株価」は、需要(買い手)と供給(売り手)のバランスで決まります。株価の変動要因は様々ですが、大きく分けて以下の2つに影響されます。
①企業の業績・将来性(ミクロ環境)
②社会・経済状況(マクロ環境)
①の企業の業績・将来性ですが、株価を決める最大の要因は企業の売上や利益の額などを表す業績です。企業の業績は3カ月ごとに発表される四半期決算などで判断されます。投資家は、競合他社の情報も併せてその企業の将来性を予想し、将来性への期待が高まるとその企業は人気となり、株価は上昇することになります。
②の社会・経済状況を捉えるためには多くの項目がありますが、主なものは以下です。景気動向、金利水準、外国為替、国内政治の動向、国際情勢、自然災害・天候、外国人投資家の動向などです。
「発行済株式数」は、その企業が市場に出しているすべての株式の数を指し、企業が新たに株式を発行したり、逆に買い戻したりすることで変化します。
発行済株式数の変化要因として、企業が自社の株を買い戻す「自社株買い」があります。自社株買いによって市場の株式数が減少すると、流通している株の価値は相対的に上がるため、時価総額も増えるのです。ただし、必ずしも発行済株式数が増えると時価総額も増えるとは限らないので注意が必要です。
時価総額は、企業の成長性や安全性を判断する際にも役立ち、時価総額が大きければ一般的に市場での信頼性が高く、資金調達力も優れています。逆に、時価総額が小さければその企業は成長途中であることが多く、リスクも相対的に高いと考えられるのです。
このように、時価総額は企業の市場価値を示す基本的な指標であり、投資判断や企業評価において欠かせない要素の一つとなっていますが、時価総額だけを見て判断することは危険です。
以上のことを踏まえて、現在の世界の時価総額ランキングを見ていきましょう。
これは、2024年8月末時点での世界時価総額ランキング上位10社です。
1位アップル(米国)
2位マイクロソフト(米国)
3位エヌビディア(米国)
4位アルファベット(米国)
5位アマゾン(米国)
6位サウジアラムコ(サウジアラビア)
7位メタ・プラットフォームズ(米国)
8位バークシャー・ハサウェイ(米国)
9位イーライリリー(米国)
10位台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(台湾)
上位10社のうち8社が米国企業ということで、米国企業の強さがわかります。
2023年12月末時点での世界株式の時価総額構成比では、63%が米国となっており、米国株式の市場規模は世界の過半数を占める世界最大の株式市場なのです。
米国経済の成長エネルギーはどこからきているのか。要因は様々あるかと思いますが、主に労働人口の増加と投資が育むイノベーションの2つにあると思います。
2050年にかけて、日本、中国、欧州で労働人口の減少が見込まれる中、米国では労働人口(15歳から64歳の生産年齢人口)の緩やかな増加が予想されています。
また、2022年実績のベンチャーキャピタルの投資額で米国は31.7兆円、中国は4.8兆円、欧州は2.5兆円、日本は0.3兆円となっており、他国と比べてイノベーションを育むリスクマネーの供給も豊富なのです。
しかし、今から35年前の1989年の世界時価総額ランキングは今とは大きく違っていました。
1位NTT(日本)
2位日本興業銀行(日本)
3位住友銀行(日本)
4位富士銀行(日本)
5位第一勧業銀行(日本)
6位IBM(米国)
7位三菱銀行(日本)
8位エクソン(米国)
9位東京電力(日本)
10位ロイヤル・ダッチ・シェル(イギリス)
と、上位10社のうち7社を日本企業が占めていました。まさにバブルがピークに達した時期でした。バブル期と現在では、時価総額上位の顔ぶれは様変わりしており、現在は世界時価総額ランキング上位50社のうち、日本企業はトヨタが39位に入っているのみです。
最後に、時代とともに主役は変化していきます。天まで伸びる木はありません。
これから10年後、20年後の主役は一体どの企業なのか?特定の国や地域、分野などにとらわれず、世界の中でどういった企業が伸びてくるのか、長期的な目線と広い視野を持って探していきたいと思います。