株式会社スノーボール

長期投資とは

5日の日経平均株価は4451円安となり、『ブラックマンデー』の翌日の下げ幅を上回り過去最大となった。日本株は年初来安値となったが、6日は一転して大きく上昇するなど大荒れの展開となっている。

当社のお客様7,8人の方から今回の暴落に対する問い合わせがあったが、今回の暴落と長期投資の意義についてあらためて考えてみたい。

日本市場の突出した暴落には私自身も驚いたが、長期投資において、今回のようなマーケットの急落を避けることは不可能である。急落を避けるのではなく、受け入れなければならない。多くの未熟な投資家は、『自分だけは雨に濡れたくない』という姿勢でタイミングを見て売り買いする。これは投資ではなく投機である。タイミングを見計らって、安く買って高く売ることが出来ればいいのだが、多くは高く買って安く売る結果となる。投資はそんなに簡単ではないのだ。

今回の暴落の要因は一つではなくさまざまな要因があると思う。アメリカの7月の雇用統計が想定よりも悪かったこと、日銀の利上げ、利上げ自体は必然的であったが、利上げのタイミングにはやや疑問が残った。アメリカの9月利下げ予想と対照的な今回の日銀の利上げは、タカ派姿勢とマーケットから解釈され、円が急伸した。これまで蓄積されていた円キャリートレードの巻き戻しが起こり、わずか1週間で20円近く円高が進んだ。

不確実性が高まったアメリカ大統領選挙の行方、イギリスで広がる暴動や中東の地政学リスクなども嫌気された。アメリカ経済の減速自体に驚きはないものの、これまでマーケットをけん引してきたマグニフィセント7に代表されるハイテク株や半導体、生成AI関連銘柄にも陰りがみられ、投資家心理(センチメント)の悪化からファンドや個人投資家の売りが売りを呼んで今回の暴落につながった。まさに『パニック売り』とはこのことだろう。長期投資家は、価格変動で売り買いをしないためパニックになって売ることはない。過去の歴史を見ても暴落のあとに来る上昇にしっかりと乗るためには、マーケットの中にいること(リスクをとること)が非常に重要である。

まだ経験の浅い投資家にとっては資産が一時的に減ることはとても辛いと思うが、長期投資を成功させるためにはこのような下落を何度も乗り越えなければならない。何度も下落を乗り越えた人にリターンは生まれる。今は厳しい状況であるが、5年後、10年後を見据えて運用を継続することで将来リターンが生まれるのである。

さて今に限った話ではないが短期的なマーケットの値動きを予測することは不可能である。専門家と称する人の話を信用してはならない。当社が信頼する運用会社の方に聞いた話であるが、マーケットの予測をして銘柄選択をしないそうである。なぜならば予測が外れたら、銘柄選択に失敗するためである。つまり経済が好不況にかかわらず、経済がどう転んでも強い企業はどこなのか?という視点で銘柄を選択するということである。もちろん、強い企業でも上がったり下がったりを繰り返すのであるが、強い企業の株価は長期的には上がっていく可能性が高いのだ。

今回の暴落の先はどうなるのか?もちろん私にも分からないが、現時点では今回の暴落がリーマンショックのような金融市場を揺るがすような事態に発展する可能性は極めて低いと考える。今回の世界同時株安において、とりわけ日本市場の下げが突出した理由は、複数あると思う。しかし一番大きな要因は、日銀の黒田前総裁の異次元緩和にあると考えている。黒田バズーガによる金利なき円が長年にわたって放置された結果、円売りドル買い、円キャリートレードのポジションが蓄積した。もちろん為替は複合的な要因で決まるが、先進国で一番金利の低い円と先進国で一番金利の高いアメリカの金利差が円安を加速させたことは明らかである。

日本は、現在もトヨタを筆頭とした製造業が主役であり、近年の円安は輸出企業の利益と株価を押し上げた。外国人投資家から見てもデフレに苦しむ日本株式会社は安くバーゲンセールだった。ウォーレン・バフェットが、低金利の円債を発行して、配当利回りの高い割安であった商社株に投資をしたのは、さすがである。歴史に類を見ない日銀の極端な金融緩和によって円は先進国で最弱の通貨となった。当初はデフレ脱却のために円安を歓迎していた政府・日銀も国民生活への悪影響から行き過ぎた円安を容認することは出来なくなった。行き過ぎた円安の修正に単独の為替介入の効果は限定的であったが、トランプ氏のドル安容認発言や河野デジタル大臣の利上げ要求など政治家のポジショントークもあり、円安修正機運は高まった。政治家の発言が影響したかどうかは分からないが、日銀植田総裁は、物価や賃金などの状況を見極めてこのタイミングで利上げに踏み切った。結果的に円高急進と日本株の大暴落につながるが、植田総裁の利上げが原因というよりも黒田前総裁時代の異次元緩和。金融緩和バブルが崩壊したと個人的には解釈している。もう少し時間がたてば明らかになると思うが、行き過ぎた金融政策の正常化においてハードランディングは避けられなかったということだろう。

今後マーケットは、時間をかけて正常化していくことは間違いないが、問題はどれくらいの時間を要するのか?である。震度7の地震のあとには余震に対する警戒が必要である。しばらく不安的なマーケット状況が続くことを覚悟しなければならないが、今回のマーケットの暴落が世界経済に深刻なダメージを与えることはないと考えている。当初のメインシナリオであるが米国経済はソフトランディングする可能性が高い。マクドナルドやインテルなどの企業業績、各種景気指標からも景気減速は鮮明であり、FRBはいよいよ9月に利下げする可能性が高くなった。日銀の利上げもそうであるが、米国の利下げに関しても副作用があるかもしれない。

真夏のマーケットの大暴落、オリンピック、記録的な猛暑、大統領選挙と何かと忙しい世の中であるが、あらためて私たちがお客様にお奨めする長期投資について考えてみたい。当社は、本日時点で327名の投資家をサポートしているが、お客様の投資年数はさまざまである。まず長期投資とは10年以上の投資と考えている。10年以上と定義されているわけではないが、長期投資による複利効果がより実感できるのは10年を超えてからだと経験上考えている。もちろんマーケット状況によっては5年でも資産が倍になることもあるが、それはある種の偶然であり、必ずしも真の実力とは言えない。

運用開始して5年で倍に値上がりして喜ぶお客様の気持ちは良く分かるが、次の5年ではあまり上がらないかもしれない。運用開始時期によっては適切に分散投資しても5年間の運用成績が冴えないこともあるが、当初5年間の運用成績に全く悲観する必要はない。投資家は、当初の運用方針に従って追加投資をたんたんと実行していくべきである。

なぜ5年間で倍に値上がりすることが真の実力ではないのだろうか?真の実力かどうかは、ポートフォリオから生み出されたリターンの中身が重要である。そもそもリターン(収益)にはインカムリターンとキャピタルリターンの二つがある。インカムゲイン、キャピタルゲインともいう。

まず債券には利息というインカムがあり、株式には配当というインカムがある。債券も株式も価格が変動するため、値上がりすることもあれば値下がりすることもある。キャピタルリターン、キャピタルロスである。投資家が債券や株式をコアとしたポートフォリオを構築するべきであるのは、二つのリターンを獲得することが可能であることが大きな理由である。例えば預金には、利息(インカム)はあるが値上がりすること(キャピタルゲイン)はない。金は値上がりすること(キャピタルゲイン)はあるがインカムはないのである。ウォーレン・バフェットが、金に投資をしない理由は、1キロの金はずっと1キロの金に過ぎず、債券や株式のようにインカムがないため複利効果を得られないためである。

当社がお客様にお勧めするのは、複利効果と時間を最大限に活用する長期投資である。複利効果を最大限に活用するためには、投資信託はとても便利なツールである。株式や債券の個別銘柄では配当や利息に自動的に課税される。また受けとった利息や配当を再投資するのは手間である。その点、分配金を出さない投資信託を活用すれば長期的に複利効果を最大限に享受することが可能である。

長期投資においては、投資信託を活用して株式の配当や債券の利息を長期で獲得していくことが何よりも重要である。5年に満たない運用期間ではインカムの積み上げは不十分であり、仮に2倍になっているとすればそれは、たまたまその期間にキャピタルゲインが大きかったということである。

72の法則によると、年率5%程度で運用すると14年で元本は倍になる。これはかなり健全であり真の実力と言えるだろう。

新規でお会いするお客様から今、このタイミングで投資を始めていいのでしょうか?という質問を受けるが、全く問題ありませんと答えている。長期投資とは為替や株価の値上がりを狙うことではなく、株式や債券のインカムを長期で獲得していくことである。日々の株価、資産の値動きに一喜一憂してはならない。10年先の未来を見据えてコツコツとインカムを積み重ねて投資を継続することが重要である。多くの個人がNISAをきっかけに投資を始めたことはいいことであるが、長期投資の本質を理解することなく投資を成功させることは難しいと思う。

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