仕事柄、今日まで20年以上にわたって数え切れないほど多くの家計を見てきた。その経験から、お金が貯まる人と貯まらない人の違いについて書いてみたい。
まずお金が貯まる人は、間違いなく身の丈に合った生活をしている。家や車、ブランド品などを含め決して見栄を張らない。総じていえば、質素で無駄のない経済感覚を持った方が多い。結果的に収入以上に支出をすることがないため、お金が余るのだ。一方でお金が貯まらない人は、新しいものや高級品に興味を持つ傾向があり、質素というよりは好奇心旺盛で面白い方も多いのだが、ついつい身の丈以上の支出をする結果、お金が貯まらない。お金を貯めるよりも、好奇心を抑えることが出来ず、クレジットカード(借金)で不要な買い物を繰り返すのだ。お金を貯める生活習慣がないのだ。
一例をあげよう。あまり儲かっていない経営者ほど高い確率で身の丈以上の高級車に乗っていたりする。間違いなくお金を持っていない経営者ほどゴルフ場などで見栄を張っているのがわかるのだが、これが実に面白い。もちろん成功している経営者も高級車に乗っているが、どちらかというと成功していない経営者のほうが良い車に乗りたがる。あくまでも私の主観であるが、そのような傾向はあると思う。高級車に限らずお金が貯まらない人は、質素とは程遠く、部屋には不要なものが溢れている場合も多い。経済的に貧しい状況から一転して売れっ子となって稼いだ芸能人やスポーツ選手にも多いが、急に年収が高くなったことでこれまで我慢していたストレスを発散し、浪費する人が多いのだ。実際にそのような方は、当社のお客様には皆無である。
当社は資産運用アドバイスを専門に行っているため、お客様の95%以上の方は、お金を貯めることが上手な人である。その中でも突出した男性Bさんの例を紹介する。8年前にお客様になった当時28歳の会社員Bさん(男性)は、現在36歳である。8年前(社会人5年目)に既に2000万円超の金融資産を保有していた。全て社会人になってからご自身で貯めたお金である。
Bさんは若くして海外駐在を経験するなど資産形成に有利な環境にあったことは確かであるが、当時2000万円で運用をスタートし、継続的に追加投資した結果、運用資産は、1億円を超えた。預金や他の金融資産を合計すると1億2000万円を超えている。36歳でご家族は、奥様とお子様であるが100%自力で貯めたお金を8年間運用した結果である。当社のお客様には、相続や生前贈与あるいはビジネスにおける成功(上場)で資産を作った人もいるのだが、Bさんのように会社員としての収入と資産運用で若くして1億円を突破した方は、なかなかいないと思う。30代半ばで5000万円貯めれば凄いがBさんは2倍以上。日本一お金を貯めるのが上手な会社員かもしれない。このBさんも先日コラムで紹介した女性投資家Aさんと同様に証券口座に滅多にログインすることはなく、長期投資をたんたんと実行しているお客様である。
さてAさんやBさんと対照的にお金が貯まらない人は、余裕資金ではなく、本来運用にまわすべきでないお金で運用している。そもそもお金を貯めることが出来ないため、自己資金がない。つまり自己資本ではなく借金(他人資本)でワンルームマンションに投資をする人が多いのだ。中にはプロとして不動産投資を行っている人もいるかもしれない(不動産のプロに会ったことがない)が、多くの人はお金が貯まらない現状を打開しようと不動産業者の甘い勧誘に引っかかってしまう。マンション投資をしている多くの人にローン金利を聞いても、正確に答えられる人は皆無である。なぜワンルームマンションを買ったのか?聞くと口をそろえるように『不動産投資の経験を積んでみたかった』という。好奇心旺盛であること自体は素晴らしいのだが、ちょっと意思決定が軽いのが特徴である。不動産業者の減価償却費を活用した節税のうたい文句に乗って、殆どリスクも理解しないまま購入し、不動産業者と銀行の2社を喜ばせている。ギャンブルをしていることに当の本人が気づいていないケースが殆どである。無謀な戦略であってもたまたま不動産価格の上昇で助かった人もいるだろう。しかしながら、住宅ローン以外の金利の高い借金は、大変危険である。不動産に限らず信用取引なども実に危険である。借金(負債)にも良い借金と悪い借金があるし、資産も同様である。
お金を貯めることが出来る人は、流動性という概念を理解している。お金を貯められない人は、流動性について理解していない。不動産や長期契約の生命保険や年金は、流動性リスクが高い。収支バランスをしっかりと管理することと合わせて、資産と負債のバランスを総合的に管理することALM(Asset Liability Management)という観点を持つことが大変重要である。お金が貯まる人は、『収支』と『資産・負債』のバランスが取れているが、お金が貯まらない人は、その両方とも管理できていない。
また、たまに見かけるが、せっかく貯めたお金の大半を住宅購入の頭金に突っ込んでしまう人がいる。借金が嫌いなのであるが、良いローンもあることを理解していないのだ。こういうタイプの方は真面目ゆえに『収支』の管理はとても上手であるが『資産・負債』の管理について理解出来ないのだ。低金利下においては住宅ローンは良い資金調達(負債)であり、貯めたお金を頭金につぎ込むよりも、しっかり長期投資で資産を成長させるべきである。