昨年2023年4月の国連推計によるとインドの人口は14億2860万人となり、中国を上回り世界一となった。2014年にモディ政権が誕生し、10年でインドのGDPは2倍になった。昨年度のGDP成長率も8%を超えており、低迷する中国の5%を大きく上回っている。もちろん今後もこの高い成長を維持できるかどうか分からないが年率8%成長する国のGDPは9年後に倍になる。(72の法則)
米中対立、ディグローバリゼーションの動きが加速する中、インドが世界経済の成長エンジンの役割を果たす可能性は非常に大きい。
先週6月4日に開票されたインドの総選挙では与党人民党(BJP)を中心とする与党が何とか過半数を確保し、モディ政権は3期目に突入した。事前に予想された大勝とはならず、むしろ改選前から議席を50以上減らす結果を見ると絶対的であったモディ政権も盤石とは言えない。今回の選挙が意外な結果となった背景には、インド経済の経済格差、高い失業率、インフレそしてイスラム教徒に対するモディ首相の強権的な対応などさまざまな要因がありそうだ。
私は、昨年9月にインドに対する興味もあり商社マンの弟が駐在していた商都ムンバイを訪問した。インド訪問は初めてであったが、弟のアテンドのおかげで効率的にムンバイの街を見ることができた。世界一人口の多いムンバイでは滞在中ずっと渋滞に巻き込まれることになったが、道路に溢れる車、インド名物オートリキシャ、家畜や野菜や果物など様々な荷物を積んだトラックのクラクションが一日中、ムンバイの街に響き渡り、毎日が高知のよさこい祭りのような雰囲気であった。
ムンバイの人口は、約2000万人で中心部には国内外の企業が入居する高層ビルや高層マンションなど摩天楼が立ち並ぶ。中心部のマンションの家賃などは東京とさほど変わらないそうだが、その摩天楼と隣り合わせるようにスラム街が広がっている。私は世界最大のスラム街、ダラビ地区をインド人のガイドさんに約2時間くまなく案内してもらった。ダラビ地区2.1平方KMのエリアに約100万人が生活していて、スラムの中に学校や石鹸工場や革製品などのショップもあり、スラムの中で経済活動が行われている。スラムといっても生活空間であるため撮影禁止エリアが多かったが、信じられないほど過酷な環境であった。現在のインド経済の格差を象徴する光景が目に焼き付き、忘れられない記憶となった。
インドでは人口1%の富裕層が40%の富を保有しており、人口の約半数つまり7億人が月収1万円以下と言われている。ムンバイの人口2000万人の40%はスラムに住んでいるとも言われている。ムンバイの街中を歩いていても平日の昼間でも若い人が何もしないでブラブラしている。弟によると若年層の失業率も高く、ブラブラして何もやっていない人が何億人いるのか?分からないそうだ。
もしも彼らが働き始めたら末恐ろしい感じはするが、インド経済における最大の問題は雇用という印象を受けた。またムンバイを歩いていると中国人が非常に少ないことに驚いた。世界中のあらゆる街に中国系の人を見るがムンバイではあまり見かけなかった。日本人も500人程度と少ないが、観光客は、首都デリーやヒンドゥー教の聖地バラナシなどが人気なのだろう。ムンバイを観光する人は少ないし、外国人のほとんどはビジネス目的である。
横浜市(人口377万人)の1.5倍程度のエリアに人口2000万人が暮らすムンバイでは、インド人だけでオーバーツーリズム状態。世界から観光客が来ても困るのかもしれない。インドの人たちも過酷な環境で生きていくことに精一杯であり、政府も積極的に観光誘致する必要もないのだろう。
さて来年2025年にインドの名目GDPは、日本、ドイツを抜き、アメリカ、中国に続く世界第3位の経済大国となる見通しである。平均年齢が若く人口が増えるインド経済は、これから長い時間をかけて成長していくことは間違いない。一方で私が訪れたムンバイの街から世界第3位の経済大国という雰囲気は全く感じられなかった。ニュースで見聞きする成長するインドと実際の光景にはまだまだギャップがあるように思う。しかしながらインドの平均年齢は約28歳で日本の48歳よりも20歳も若い。今は仕事をしていない若者も含めて潜在的な可能性を秘めていることは確かである。
弟によるとインドでは日本では考えられないような出来事が起こる。また日々の生活の中で信じられないような光景を目にする。清潔で整然とした日本とは対照的に混沌としていて刺激的かつダイナミックで面白い国である。インドの神様のこと宗教、民族、カースト制度など実に奥が深い国である。わずか5日の滞在であったが激動するインド経済を感じることができた。まさに【百聞は一見にしかず】といえる貴重な旅であった。